東北大学(東北大)原子分子材料科学高等研究機構の中山幸仁 准教授の研究グループと同大金属材料研究所の横山嘉彦 准教授の研究グループは、ガスアトマイズ法を用いてアモルファス合金(金属ガラス)からナノワイヤを大量に生産する手法の開発に成功したことを発表した。同成果は、米国化学会誌「Nano Letters」にて近日中に掲載される予定だ。
アモルファス合金は通常の金属で見られる転位や結晶粒界がなく、その強度は理論値限界に近い高強度を持つと共に、ランダムな原子構造には原子間に隙間が存在するため、荷重に対する応力回復が起こりやすく高い弾性限界も示すことから、こすいた機械的特性を構造部材やセンサなどに利用しようとする研究が各所で進められている。また、アモルファス合金は結晶磁気異方性がなく保磁力が低いという軟磁性の特性を持っており、エネルギーが消費され熱になる磁心損失が小さいため、モーターやトランスの磁心材料としても利用されてきた。
これまでのナノテクノロジーの研究分野では、カーボンナノチューブ(CNT)やシリコンナノワイヤなどナノ細線構造に関する研究成果が世界中より報告されてきたが、こうしたナノ細線は、結晶質材料から構成されてきた。一般的に結晶質材料では、例えナノサイズであっても転位、点欠陥、双晶、結晶粒界などさまざまな欠陥サイトが存在するため、このようなサイトに応力集中が起これば破壊の起点となってしまい、長いナノワイヤの作製が困難であった。一方、アモルファス合金にはこのような転位欠陥や結晶粒界が存在しないため、これを用いることで長く、高強度のナノワイヤの作製が可能になることが期待されていた。
今回用いられたガスアトマイズ法は、粉末冶金の研究分野において溶融技術に基づく粉体製造の重要な手法として確立されており、不活性ガスで充満された容器内で、図1に示されるように多数個のノズルからガスジェットを溶湯流状態の金属や合金に対して射出して、これを粉砕することにより粉末を作製する手法だ。
一般的に微細な粉体を作製する場合、その溶湯温度を融点よりもさらに高い温度で加熱することで溶湯粘度を極端に減少させて球状化を容易にしている。今回、研究グループは、試料を融点以上に一端加熱した後、溶湯を融点以下に過冷却した状態でガスアトマイズを実施した。この状態では粘性が指数関数的に増大し、曳糸性が増大して球状の粉体よりもむしろ大量のナノワイヤが作製できることが確認された。
同手法は、ナノインプリントやリソグラフィなどの高価な手法を用いずとも容易にナノワイヤの作製を可能とするもので、今後、軟磁性のアモルファス合金からナノワイヤを作製できれば高感度の磁気センサとして利用できる可能性や、白金を用いたアモルファス合金から大量のナノワイヤ(ナノファイバ)を作製できれば高活性な触媒材料、燃料電池電極材料、高密度フィルタとして利用することも期待できるようになると研究グループでは説明している。