東京大学は、強誘電性カラムナー液晶材料の開発に成功したと発表した。成果は、東京大学大学院工学系研究科 教授の相田卓三氏、同博士課程学生 宮島大吾氏、東京工業大学大学院理工学研究科 教授 竹添秀男氏、同助教 荒岡史人氏らによるもの。同成果は、米国科学雑誌「Science」電子版に掲載された。
液晶はディスプレイに用いられる材料として有名だが、その自己組織性および環境による構造制御性などの特性により、様々な分野で応用が検討されている。今回の強誘電性カラムナー液晶材料は、ほぼ分子サイズという細かい記録(高記録密度)を与えることが可能な他、塗布などによる簡便なデバイス作製プロセス、貴金属元素フリー、軽量化などの多くの利点を有している。また、強誘電性材料の開発に今までにないアプローチを与える他、液晶材料の新たな応用可能性を提示するものでもあるという。
今回、強誘電性カラムナー液晶材料が実現できた要因として、研究グループは緻密にデザインされた分子設計を挙げている。同分子は円錐状分子集合体を形成し、積み重なることでコア-シェル構造のカラムを形成する。コア-シェル構造のコア部では、カラム中心(円錐頂点)に位置するシアノ基が分極を担い、シェル部では、嵩高い側鎖が円柱間の相互作用を制御し液晶性を担う。コアとシェルの中間には、アミド基によって形成される水素結合ネットワークがあり、これにより中央の分極を安定化させる設計になっている。しかし、安定化が弱いと電場を切った時に分極を保持できず、逆に安定化が強すぎると分極を反転させることができなくなってしまう。そこで類似化合物を数多く合成した結果、絶妙なバランスによりこれが達成できることを発見した。
同材料は電場を印加するだけで、メモリ素子として最適な方向に一様に配向することができる。仮に一本一本のカラムの分極を制御することができた場合、単純に一本のカラムが1ビットを表すとすると、カラム同士の間隔(約4.58nm)から約36Tビット/平方インチの高密度メモリが実現できることになる。この値はBlu-Ray Discの1000倍以上に匹敵するという。実用化には、安定した記録・読み出し技術など、多くの課題が予想されるが、分子オーダーでの観察測定やマニピュレーションなどの技術を利用すれば、不可能ではないと見ている。