島津製作所は4月11日、理化学研究所・社会知創成事業イノベーション推進センター内に4月1日に開設された杉山特別研究室と連携し、「マイクロドージング」を用いた創薬支援に関する「液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS/MS)」による定量法について研究を開始することを発表した。

杉山特別研究室は、東京大学大学院薬学系研究科分子薬物動態学教室の杉山雄一教授を招聘して理研が設置したもので、薬物動態・薬効・毒性についてin vitro(試験管内)からin vivo(生体内)の予測、薬物間相互作用、個人間変動や病態時変動の予測などを可能にする統合的な創薬支援システムの確立を目指している。

島津製作所は、同研究室の開設に当たって同社のほか計25社と共に資金拠出をすると同時に、同社が有するLCMSシステムと高感度分離技術を活用し、マイクロドーズ臨床試験およびカセットドーズ試験用アプリケーションシステムの開発を始める形だ。

マイクロドーズ臨床試験とは、創薬の初期段階において、薬剤の候補となる化合物を薬理作用を発現しうる推定投与量の1/100以下または100マイクログラム以下というごく微量を人体に投与し、薬物動態特性を解析する方法だ。そこから臨床投与量での体内動態を推定し、第I相の治験開始前に医薬品候補化合物を絞り込むことによって、医薬品開発の迅速化かつ効率化を図るのである。

マイクロドーズ臨床試験は近年、世界中で注目が高まっており、欧州、米国に続いて日本でも2008年7月に厚生労働省より「マイクロドーズ臨床試験の実施に関するガイダンス」が発出された(ガイダンス(PDF)はこちら)。

マイクロドーズ臨床試験の解析方法としては、放射性同位元素で標識した候補化合物の濃度を測定する「加速器質量分析法(AMS)」、標識しない候補化合物を投与し高感度のLC/MS/MSによって測定する方法、ポジトロン放出核種で標識した候補化合物をPET(陽電子放射断層撮影法)を用いて測定するPET法がある。

LC/MS/MSを用いた測定法は超微量成分を高感度で分離し、候補化合物の未変化体から代謝物の薬物動態や定量分析、構造解析まで可能という点でほかの2つの方法に比べて有用性の高い手法だ。

さらに、1人の被験者に複数の候補化合物をほぼ同時に投与して、その中から最も薬物動態の優れた化合物を選択するカセットドーズ試験においても有効であるという利点がある。

カセットドーズ試験は、まったく同一の条件下で複数個の候補化合物の薬物動態の比較が可能だ。同一の効果を期待する化合物の中から、最も薬物動態の優れた化合物を選択することができる。また、被験者の数を減らせるためコスト面でもメリットがある反面、候補化合物を複数投与することから、投与前の体内動態予測の精度が求められ、高度な予測モデルが必須だ。

島津製作所は2010年9月に国産初のタンデム型質量分析計となるトリプル四重極型液体クロマトグラフ質量分析計「LCMS-8030」を発売するなど、試料中のごく微量成分の検出において世界最速のデータ測定スピードと高い信頼性を実現する質量分析計の開発を進めている。

島津製作所が有するLC/MSシステムと高感度分離技術を活用し、杉山特別研究室との研究を通じてカセットドージングを含むマイクロドーズ試験での微量薬物定量法を確立させることで、薬物動態分野での研究を推進していくという。