NTTは4月11日、GaN系半導体薄膜素子を成長用サファイア基板から簡単に剥離させるプロセスを開発したことを発表した。これにより、2μm厚のGaN系半導体薄膜素子を低コストで作製することが可能となり、紫外線のみを効率よく吸収する特性を持つ太陽電池の開発や200μm程度の薄いLEDの作製などへのGaN系半導体薄膜材料の応用範囲を広げることが可能になるという。同成果は、英国科学雑誌「Nature」に掲載された。
GaN系半導体は、無線通信やパワーエレクトロニクスで使用される高出力電子デバイス、信号機・照明などに使用される可視光デバイスなどの半導体材料として広く使われているが、これらの様々なデバイスは、成長用サファイア基板上に積層したGaN系半導体薄膜素子を加工して作られている。成長用基板は、薄膜素子を積層および加工する際の土台となるものであり厚みが0.5mm程度必要となる事から、薄い太陽電池や薄いLEDを作製しようと試みても、成長用基板の厚みがLED全体の厚みとなってしまう問題があった。そこで、加工後に成長用基板から薄膜素子をきれいに剥離し、別の基板に貼り付けることができれば、利用範囲が広がると考えられており、実現に向けた研究が世界中で進められてきた。
NTT物性科学基礎研究所では、グラファイトと同じ層状の結晶構造を持つ窒化ホウ素(BN)に着目し、成長用基板から薄膜素子を剥離し別の基板に貼り付ける研究を行ってきており、今回、これらの技術をベースに成長用基板から薄膜素子を剥離する新手法「MeTRe(Mechanical Transfer using a Release layer:メートル)法」を開発した。
同法を用いると、剥離後の結晶面を綺麗に保つ事が可能となるため、従来から提案されている転写方法と比較した場合、剥離後に表面を削って平らにする工程が不要となるほか、剥離するための大規模装置や薬剤も不要となるため、作製時間および作製コストの削減も期待されるという。
具体的な手法としては、成長用基板上に層状の結晶構造を持つ高品質のBN薄膜を積層させ、その上にさらに高品質薄膜素子を積層させる。同構造では、BN薄膜が成長用基板と薄膜素子との間の「切り取り線」としての役割を担うため、簡単に剥離し別の基板に貼り付けることが可能となるという。今回の研究では、BN薄膜の品質を左右する「成膜パラメータ」から最適な条件を見つけ出すことで、結晶の方向が揃った高品質なBN薄膜が積層できるようになった。
また、層状物質であるBN薄膜の上に、結晶構造の異なる窒化アルミニウムガリウム(AlxGa1-xN)あるいは窒化アルミニウム(AlN)バッファ層を積層した後に、薄膜素子を積層させたという。層状BN薄膜の上にウルツ鉱型構造を有するGaNを直接積層させることは、結晶構造の違いから困難とされてきたが、今回の研究では、一般に下地基板とのぬれ性が良く、結晶構造が異なる基板上への積層実績がある、Alを含むAlxGa1-xNやAlNを層状BN薄膜とGaNの間にバッファ層として用いることで、結晶構造の違いにかかわらず、高品質な薄膜素子を積層することを可能にした。
今回の成果により、成長用基板から薄膜素子の品質を保持したまま簡単に剥離することが可能となったことから、例えば窓に透明な薄膜素子を張り付けることで、太陽光に含まれる紫外線のみを遮断することが可能となり、遮断した紫外線で発電する太陽電池の開発が可能となるほか、0.2mm厚程度のLEDの作製も可能になると同社では説明する。また、剥離する薄膜素子の面積を大きくすることで、大面積の薄膜素子上に別材料を積層して新たな機能を持つ薄膜素子の大量生産といった応用研究への発展も期待できるようになるとしており、今後は剥離する薄膜素子の面積の大型化を目指すほか、窓や乗り物に貼り付けて使う太陽電池への応用や既存デバイスの特性改善などの実証に取り組んでいく計画としている。