新エネルギー・産業技術総合開発機構と京都大学は、革新型蓄電池先端科学基礎研究(RISING(Research & Development Initiative for Scientific Innovation of New Generation Batteries))事業において、大型放射光施設「SPring-8」にRISING専用の蓄電池専用解析施設「RISINGビームラインBL28XU」(設備投資額:3年間合計24.9億円)が完成したことを発表した(画像1~3)。

画像1。式典でのテープカットの様子

画像2。ビームライン見学風景

画像3。記者会見風景

RISING事業は、2009年から2015年までの7年間、8大学(京都、茨城、九州、静岡、東京工業、東北、立命館、早稲田)・4研究機関(高エネルギー加速器研究機構、高輝度光科学研究センター、産業技術総合研究所、日本原子力研究開発機構)・12企業(三洋電機、新神戸電機、GSユアサ、トヨタ自動車、豊田中央研究所、日産、パナソニック、日立製作所、日立マクセルエナジー、本田技術研究所、三菱自動車工業、三菱重工)・2組織(新エネルギー・産業技術総合開発機構、ファインセラミックスセンター)というオールジャパン体制で、「2030年に500Wh/kgのエネルギー密度を有する革新型蓄電池の実現」を目指して、年間予算30億円(総額見込み210億円)で推進されているプロジェクトだ。

京都大学・産業技術総合研究所関西センターが拠点となっており、高度解析技術開発、電池反応解析、材料革新、革新型蓄電池開発の4グループに分かれて研究が進められている。

この500Wh/kgというエネルギー密度は現状の5倍で、この性能のバッテリを搭載した電気自動車は航続距離が400kmとなり、事実上ガソリン自動車と並ぶのである。なお、3年後の2015年までには、その前段階として、革新的蓄電池のコンセプトを提案・具体化し、研究室レベルで300Wh/kgを達成するという目標も掲げている。

RISINGの具体的な目標は以下の3つだ。

  1. 世界最先端の測定手法の開発により、革新型蓄電池の本質的な現象の解明
  2. 革新型蓄電池の2030年までの早期実用化に資するために、現行技術水準(重量エネルギー密度100Wh/kg)の3倍以上のエネルギー密度並びにサイクル安定性の基礎技術の確立
  3. リチウムイオン電池の反応メカニズムの解明による現状のリチウムイオン電池等の技術レベルのブレークスルー

この実現のために、2009年の発足当初より

  1. 高度解析技術の開発
  2. 電池反応メカニズムの解明
  3. 革新型蓄電池の基礎研究

の3つの研究開発課題について取り組みが行われているというわけだ。

また、発足当初よりチャレンジングなRISING目標を達成するためには、ブラックボックス化していて技術者の勘に頼った電池内部の反応メカニズムを明らかにし、そのための解析設備を立ち上げることが必要不可欠であるとして、発足3年間(2009~2011年度)の活動方針として「解析手法の整備と革新電池新概念の検討」を掲げ、SPring-8「RISINGビームライン」の立ち上げが進められてきた。そして今回、それが結実して、世界に類似を見ない電池解析専用施設が完成したというわけである。

施設としては、リングの壁に添う形で長さ約18mの光学ハッチが建設されており、隣接するBL28B2の出入り口を避けて実験ハッチ1および実験ハッチ2を、タンデム型で並べて建設されている(画像1~3)。実験ハッチ1(画像4・5)では主に回折とイメージング、実験ハッチ2(画像6)では主に「X線吸収微細構造(XAFS)」などのスペクトロスコピーによる実験をそれぞれ行う予定だ。

画像4。RISINGビームラインBL28XUのハッチ全体図。SPring-8公式サイトより抜粋

画像5。光学ハッチの設備の構成イラスト。SPring-8公式サイトより抜粋

画像6。実験ステーションの設備の配置図。SPring-8公式サイトより抜粋

画像7。実験ハッチ1の設備の構成イラスト。SPring-8公式サイトより抜粋

画像8。実験ハッチ1に設置された8軸解析計。SPring-8公式サイトより抜粋

画像9。実験ハッチ2のXAFS定盤。SPring-8公式サイトより抜粋

光源はテーパ付真空封入型アンジュレータ、主な光学素子は第1ミラー(M1)、第2ミラー(M2)、コンパクト分光器、第3ミラー(M3)、第4ミラー(M4)だ。M1とコンパクト分光器は液体窒素冷却で、M2、M3、M4は水冷。すべてのミラーが白金とロジウムに塗り分けられている。

M1とM2は水平方向に集光し、M3とM4は垂直方向に集光し、高次光を除去する仕組みだ。コンパクト分光器はシリコンチャンネルカット結晶を磁性流体回転導入軸シールを介して、サーボモータで駆動する型式であり、Si(111)面で4~30keVをカバーする。分光器を用いない準白色光も利用可能。

実験ステーションの設備は、8軸X線回折計(実験ハッチ1:画像8)、XAFS測定装置(画像9)、硬X線光電子分光(HAXPES)(以上、実験ハッチ2)、シンチレーションカウンタ、イメージングプレート、二次元ピクセルアレイ検出器、マイクロフォーカスKBミラー、21素子ゲルマニウム半導体検出器、CCD検出器となっている。

RISINGビームラインは、SPring-8固有の高輝度X線によるX線回折やXAFS、HAXPESを最大限活用し、電池反応解析に必要な「空間分解能」および「時間分解能」を併せ持つ。非平衡状態・界面被覆状態・反応分布状態等をその場(in situ)測定するための解析系を整備すること、電池サンプル準備からその場(in situ)測定のための連続的な実験が可能となっている。

今回のRISINGビームラインが2030年の革新型蓄電池の実現に貢献するとともに、現在競争の中にある現行電池系の改良にも貢献することにより、蓄電技術立国日本の盤石化に寄与することを目指すとしている。