金沢大学は、「放射性サマリウム同位体」(質量数146と147)の放射能比と原子数比から、宇宙・地球科学において年代測定に使われているα放射性核種「サマリウム-146(146Sm)」の半減期を新たに測定することに成功し、現在用いられている値よりも34%短い値であることを発表した。

成果は、金沢大理工研究域物質化学系の横山明彦教授、自然科学研究科博士後期課程修了の木下哲一氏、そしてイスラエル・ヘブライ大学、米アルゴンヌ国立研究所の国際共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米科学雑誌「Science」3月30日号に掲載された。

146Smは半減期が1億300万年とされ、地球の年齢よりはずっと短いため、天然にはほとんど存在しない。146Smは「ネオジム-142(142Nd)」に「壊変」するので、隕石などに142Nd同位体異常が観測されており、太陽系誕生時に存在していた証拠とされている。

なお壊変とは、原子核が不安定な状態から、放射線を出すことで別の原子核もしくは同じ原子核でも安定した状態に変わっていく現象のことをいう(崩壊ともいう)。放出する放射線によって、α壊変、β壊変、γ崩壊という詳細な言い方もされる。

また142Nd同位体異常は固化年代測定に用いられており、地球、月、火星についてはいくつかの報告がなされてきた。よって、146Smの半減期が再検討されると、これらの年代も再検討しなければならなくなるというわけだ。

そして146Smのような長寿命核種の半減期T1/2の測定は、放射能Aと原子数Nの関係「A=0.693/T1/2×N」から算出する。ただし質量分析による原子数の測定は、同重体が目的核種の測定に干渉し過大評価になってしまう点が問題だ。

質量分析を避ける方法として、146Smに壊変する「ユウロピウム-146(146Eu)」を製造し放射能測定により146Eu壊変後の146Sm原子数を定量する方法もある。しかしこの方法はこの方法で、おびただしい量の146Eu放射能測定やバックグラウンドに埋もれそうなピーク解析をしなければならず、定量値に問題が生じるという欠点があった。

そこで研究グループでは、これらの問題を回避可能な「加速器質量分析」を用いた146Smの原子数測定とα線測定による放射能測定により146Smの半減期を測定し、得られた半減期を用いて146Sm-142Nd年代について再検討を実施したのである。

なお、放射能と原子数測定において絶対測定は困難で、サマリウムの同位体である147Smは146Smと同じくα壊変し天然に存在する放射性核種であり、147Smと比較することで計算式A(画像1)により計算する方法が簡便である。

画像1。計算式A

147Smを出発物質に147Sm(p,2nε)146Sm反応、147Sm(γ,n)146Sm反応、147Sm(n,2n)146Sm反応により146Smを製造し、化学操作によりSmのみを生成しα線測定を行い、146Sm/147Sm放射能比(A146/A147)の測定を行った。

α線測定後、測定に用いた試料を米アルゴンヌ国立研究所のATLAS施設にて加速器質量分析により146Sm/147Sm原子数比(N146/N147)の測定を実施。ECR(電子サイクロトロン共鳴型)イオン源に装填したSm試料から「146Sm22+」を引き出し、超伝導ライナックを用いて1GeV近くまで加速し、ガス充てん型電磁石を用いて146Sm22+と不純物として混入する146Nd22+の分離を行い、質量~150付近での質量分析による同重体の分離に世界で初めて成功した。

加速器質量分析は、世界中で行われている長寿命の放射性核種の測定に非常に有効な手法であるが、質量が大きくなるに従い分離が困難になり、十分な分離には大きな加速エネルギーが必要だ。今回は、1GeVにまで加速できたことが加速器質量分析成功のきっかけとなっている。

これらの測定により得られた146Sm/147Sm放射能比と原子数比より6800±700(1σ)万年の146Smの半減期が得られ、現在採用されている値よりも34%も短い値が算出されたというわけだ(画像2)。

画像2。3つの方法で製造したサンプルにおいて同様な半減期が得られ、現在使われている値よりも34%短い値となった

これまで、例えば月から採取された斜長石「FAN60025」の測定の場合、146Smの従来の半減期である1億300万年を用いる146Sm-142Nd年代測定法では2億5030+3800万年~2億5030-3000万年となり、Pb-Pb(Pb:鉛)年代測定法の2億880±240万年と、147Sm-143Nd年代測定の2億100±1100万年と比較するとズレがあった。

しかし、今回の研究で得られた半減期を6800万年とすると、FAN60025の146Sm-142Nd年代は1億7520+2500万年~1億7520-2000万年と得られ、誤差内でPb-Pb年代と147Sm-143Nd年代とおおよそ一致し、宇宙・地球科学的手法により半減期の確度を検証することができたというわけだ。また、現在までに報告されている146Sm-142Nd年代を再検討すると画像3の表に示される年代となった。

画像3。本研究で得られた146Smの半減期を用いて再検討された146Sm-142Nd年代測定法。「From ref. in column 3」が従来の値による年代で、その右の「Revised in present work」が今回の値