日本法人創立20周年を迎えたアドビ システムズは、日本での実績と今後の事業方針に関する記者説明会を開催した。同説明会では、代表取締役社長のクレイグ・ティーゲル氏が演壇に立ったほか、ドローイングアンドマニュアルの創設者であり、映像作家 / アートディレクターの菱川勢一氏がゲストスピーカーとして招かれ、同社製品との関りを語った。
アドビ システムズの軌跡
1992年に設立されたアドビ システムズは、ポストスクリプトの開発などによるデスクトップパブリッシング分野の開拓から始まり、AcrobatならびにPDFの開発による電子文書の標準化、そしてWebパブリッシング分野への進出を経てきた。また、2005年にMacromedia、2009年にOmniture、2011年にはEfficient Frontierの買収によって社内開発の補足を行い、成長を果たしている。
日本においては、「Photoshop」、「Illustrator」、「Dreamweaver」、「InDesign」等のソフトウェアが高いシェアを獲得し、それぞれの分野で業界標準のポジションを獲得。ティーゲル氏は、それらのソフトウェアが多くのクリエイターや学生などをサポートすることで、すばらしいコンテンツが生まれてきたという認識を持っているとのこと。
また、同社製品を使い始めてから20年になるというゲストスピーカーの菱川氏は、同社製品によって、今まで不可能だった表現が可能になったことや、クリエイティブ以外の煩わしい作業に割く時間が減ったことが喜ばしいとコメント。例えば、アドビ製品が普及したことで、クリエイター同士はもちろん、菱川氏が教授を務める美術大学の学生との間でも、PhotoshopやIllustratorのファイル形式をそのまま交換できるようになったという。今後は、同社がクラウドサービスの充実を図ることで、ファイル交換に関してもよりスムーズな環境が整うことを期待し、より簡単に扱えるツールの開発や、スイート製品に含まれる各ソフトウェアの機能がひとつにまとまった統合ソフトのリリースを希望しているとのこと。
今後のアドビが取り組むふたつの重要な戦略
続いて、同社が今後取り組むふたつの重要な戦略として、「デジタルメディア」と「デジタルマーケティング」に関する取り組みが紹介された。同社が創立されてから約30年、日本法人創立からの20年間を振り返ってみても、Webの普及から始まり、ブログやソーシャルメディアの普及、タブレットやスマートホンといったモバイルデバイスの普及など、技術の状況や消費者の行動形態は変化している。
さらに消費者とやり取りする方法や組織同士のコミュニケーション方法も移り変わっており、同社はその前線に立って変化を推し進める立場にあると考えている。そのため、紙媒体であったコンテンツをデジタルメディアに、デジタルメディアを活用するためのデジタルマーケティングに注力することが同社の重要な役割だと認識している。
同社にとってのデジタルメディアとはクリエイティブツールであり、2012年前半には「Creative Suite 6」(以降、CS6)のリリースを予定。CS6を印刷や出版企業が利用すれば、従来の印刷向けに製作した雑誌をタブレットなどに向けたデジタル版として再提供できるなど、1度製作したコンテンツを別の形で配信可能になるという。
また、デジタルメディアの一環として「Creative Cloud」という新サービスも開始する。Creative Cloudのメンバーシップに登録することで、CS6やそれ以降の製品がダウンロードで入手可能となり、パッケージ化を待たずに最新のソフトが使えるようになる。また、相手やデバイス、OSなどを問わずにコンテンツ共有が行える環境を提供する。
デジタルマーケティングでは、広告の製作から管理や効果測定、最適化、収益化までの業界標準を目指すとのこと。これに関しては、自社開発を進めると同時に、デジタルマーケティングに関する技術を持つ3社の買収も行ってきた。会場では、これらの技術を搭載した「Digital Marketing Suite」のデモを行い、Webサイトに訪れた消費者の性別、年齢、地域などを解析し、各消費者に合わせたコンテンツのパーソナル化が自動で行われる仕組みを解説。これにより、消費者が求めている情報を的確に提供して、収益化に貢献できるWebサイトの製作や運用が行えるようになる。
最後にクレイグ氏は「アドビ システムズのミッションは世界を動かすデジタル体験を提供することであり、今後もユーザーをサポートし、ユーザーの変革も支援していく」と締めくくった。