国立天文台は3月29日、デイビッド・ソブラル氏がリーダーを務めるオランダ・ライデン天文台と英国エジンバラ王立天文台を中心とした研究チームが、すばる望遠鏡とイギリス赤外線望遠鏡「UKIRT」による観測から、約90億年前の「古代」の宇宙に数多くの銀河を発見したと発表した。
また、今回は2波長での観測を組み合わせた手法で銀河探査が行われ、遠方にある星生成銀河を効率的に選び出し、それらの星生成活動の様子を詳しく調べる上で、強力な手法となることも証明したと併せて発表している。研究の詳細な内容は、英学術誌「Monthly Notice of the Royal Astronomical Society 」に掲載された。
銀河がどのように現在の姿に至ったのを知るためには、天の川銀河の外の天体を詳しく調べることが大切だ。特に、異なる時代の宇宙にある銀河の特徴を比べることで、銀河の生い立ちや進化について手がかりを得ることができる。
しかしながら、遠方宇宙の観測は容易ではない。従来の研究では観測領域が狭く銀河サンプルの数も少ないため、「銀河がいつ星生成活動のピークを迎えるのか」、「どのような物理過程が銀河の星生成活動を担っているのか」といった重要な疑問には、十分に答えられていなかった。
研究チームは今回、すばる望遠鏡で水素原子が発する輝線(原子や分子から放射される特定の波長の光)を、UKIRTで酸素原子が発する輝線を観測し(画像1)、およそ90億年の宇宙の「俯瞰図」を描き出した。
星生成銀河から発せられる2種類の輝線を広範囲で探査することで、従来行われてきた1種類だけの輝線による探査では多くの銀河を見逃してしまったり、あるいは銀河の性質について情報を正確につかみにくかったりした問題を克服した形だ。
画像1は、2つの輝線による遠方銀河探査の例。上はUKIRTによる観測で、酸素輝線をカバーする波長のフィルターで観測した画像が左、より幅広い波長をカバーするフィルターで撮影した画像が中央、両者を差し引きした画像が右。下は水素輝線を利用したすばる望遠鏡による同様の観測。差し引きをすることで輝線を強く放つ銀河だけが浮かび上がる。このような銀河がおよそ90億年前の宇宙にある星生成銀河である。
研究チームは今回、水素と酸素の両方で輝線が見られる190の遠方銀河を発見し、およそ90億年前の宇宙ではどれほどの星生成が起こっていたのかを見積もった。そしてほかの研究との比較から、銀河における星生成活動は過去110億年で継続的に減少傾向であることが確認された(画像2)。
画像2は、宇宙における星生成の歴史をまとめたグラフ。横軸が宇宙誕生からの時間(左端が現在で、右に行くほど過去)、縦軸が星生成活動の大きさの指標(対数表示)。赤い四角が、2輝線の観測で得られたおよそ90億年前の星生成の様子。今回の星生成活動が過去110年にわたって減少傾向にあることがわかる。
ソブラルチームリーダーは、今回の観測の意義に対し、「銀河おける星生成活動などの物理過程を2種類の光で観測することで、遠く離れた宇宙で何が起こっているのかを調べる視界が広がりました。それはまるで音楽をステレオイヤホンで聴くようなものです。片側のイヤホンだけでは聞き逃してしまうボーカルや楽器の音もあります。両耳にイヤホンを付けることで初めて音の全体像をつかむことができるのです」と語っている。