国立遺伝学研究所(遺伝研)は、細胞の硬さを推定する新しい方法を開発し、細胞質分裂時の細胞表層の硬さの推定を行ったことを明らかにした。同成果は同研究所 細胞建築研究室の木村准教授と小山研究員(現 基礎生物学研究所助教)の研究チームは、統計数理研究所の樋口教授、中村研究員(現 明治大学特任講師)および神戸大学の梅田准教授らによるもので、オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

細胞質分裂は、分裂溝をくびれさせることによって細胞を2つに分割する力学的な過程だが、この時、分裂溝から細胞の極側に至る細胞表層の硬さの制御が重要と考えられてきたものの、直接、その硬さを測定することは困難であった。

そこで研究グループでは、実験的に観測された細胞形状と、硬さを考慮した数理モデルを組み合わせることで、細胞表層の硬さの時空間的な変化を予測する方法を構築。同法を線虫初期胚の細胞質分裂に適用したところ、細胞表層の硬さの指標である曲げ弾性係数が、細胞の極側に対して分裂溝近傍で相対的に低下すると推定されたという。

また、硬さの制御が分裂溝の陥入に与える効果を理論的に検証したところ、硬さを適切に制御することで、収縮環の力を仮定しない場合にも分裂溝が陥入することが判明したという。

なお、この結果は、細胞表層の力学的性質が時空間的にダイナミックに変化することだけでなく、細胞表層の硬さが分裂溝の陥入の主要な制御対象になりうることを示唆する成果であるという。

今回開発された手法で推定された細胞表層の硬さと、細胞質分裂のモデル。通常は分裂溝付近で細胞表層が軟化し、細胞質分裂を助けている。ZEN-4タンパク質がないと軟化が起こらず、細胞質分裂が阻害される