インテルは3月27日、都内で「IT@Intel」と題した記者会見を開き、同社のIT化への取り組みに関する最新報告を行った。コンピュータの中核となるプロセッサの開発・製造で世界ナンバー1企業の同社だが、自身が積極的にITを社内業務へと取り組むことで、顧客に対する見本を自ら示すのが狙いとなる。

個人所有デバイスの利用許可や外部サービスの積極活用

レポートのまとめはスライドの内容に詳しいが、今回の発表におけるハイライトの1つはコンシューマデバイスの保有比率が58%と大幅に上昇したことが挙げられる。社用PC/携帯といった支給制度を敷いている会社は多いが、リース等による契約によりマシンの更新が遅い、検証などのために最新のデバイスやサービスが利用しづらいといった難点がある。特に最近ではスマートフォンを中心に、コンシューマ側がデバイスやサービスのトレンドをリードする傾向があり、「手持ちのデバイスをそのまま仕事でも利用したい」という要望もあるだろう。インテル 情報システム部長 富澤直之氏によれば、「ほぼすべてのメジャーなOSプラットフォームをサポート」する形で、自身の持つモバイルデバイスをそのまま社内システムで利用できるようになっているという。2009年にはゼロだったこうしたデバイスの比率が2010年には44%になり、昨年はとうとう58%の水準まで上昇した。「会社も支給デバイスのためのコスト負担が減る」という一石二鳥のアイデアのようだ。

インテル 情報システム部長 富澤直之氏

またクライアントPCも最新の環境への移行が進んでおり、SSD搭載ノートPCの比率は2010年の63%から昨年は89%へ、ディスク暗号化対応は83%から90%へと上昇している。Micronとの協業でSSDの積極推進を行っているインテルだが、自らが積極的にこの移行を進めているようだ。クライアントとしてはMacの採用も検討中で、これにともない社員の私用PCの利用も許可すべく対象を拡大しているという。Mac導入におけるハードルの1つは社内で使用されるアプリケーションの互換性で、こうした部分のサポートも検討対象のようだ。

2009-2011年におけるインテルのIT関連データ推移チャート

ビデオ会議やソーシャルメディアに代表される外部サービスの活用も進んでおり、これが生産性の向上に寄与しているという。ビデオ会議はモバイル向けアプリケーションも提供されているほか、PCなどで利用できる会議システムも使用されているという。2011年には1週間あたり600件のビデオ会議が実施され、これが会議のための出張を時間にして43万5000時間、金額で7300万ドルの削減効果をもたらしたという。特に世界展開を行っている同社の場合は効果が大きいだろう。またこれにともない、ビデオ会議対応の会議室の数を2倍に増やしたという。ソーシャル活用については、汎用のソーシャルネットワークを利用しての情報発信のほか、内部でのコミュニケーションツールとしての利用も進んでおり、参加したカンファレンスやイベントの写真を掲載することで面白い情報をシェアするケースがあるようだ。デバイスの件も含め、セキュリティのためにインフラ利用の制限をかけていくよりも、こうした仕組みを積極的に取り入れていく方針がポイントの1つのようだ。

2011年における成果

サーバインフラも最新鋭のものに

クライアント環境の刷新と同時に、サーバ環境の最新化や刷新も進んでいる。インテルもデータセンターを各地の事業所に備えているが、その目的は外部公開を主体としたインフラ企業とは異なり、プロセッサ設計や業務システムなどほぼ内部での利用を主体としたものだ。そのため研究所ごとに膨大な計算処理を行うデータセンターを設置したりと、単純にERPなど基幹システムを利用する一般のエンタープライズ用途とも異なる。

システムとしてはBI(Business Intelligence)導入で需要予測等の精度や時間を短縮したほか、開発者らが自身に必要なアプリケーションをすぐに利用できる仕組みを用意したという。例えばIaaSベースのセルフポータルサービスを用意し、各自が必要な処理能力を45分で自動的にプロビジョニング可能な仕組みが提供されるという。またマーケティング部門が自身でコンテンツを簡単に発行するためのシステムが提供されるようになり、これにまつわる時間とコストが短縮されたという。サーバの仮想化も進んでおり、現時点では全体の9割の仮想化が行われ、初期設定に時間をかけずともサーバの増設ですぐにリソースの追加が行えるような仕組みになっているようだ。

また最近のIntelは他のIT企業大手と違わず、大型買収をするケースがみられるが、過去に買収した12の企業と1万人以上の従業員の抱えるシステムを統合することに成功したという。具体的には複数の異なるIT統合モデルを用意し、買収した各社にカスタマイズされたソリューションを導入することで実現しているという。そのため、図にもあるように買収によって一時的にデータセンター数が増加しているものの、統合により拠点数を減少、結果的にコスト削減に成功したということだ。なお、データセンター数の削減に対して床面積の減少数が少ない理由については、データセンターの大規模化で休眠状態のスペースがあることに由来するという。

日本での対応は?

IT@Intelは毎年同社が定期的に行っているレポート発表会であり、昨年は東日本大震災で開催されなかったという経緯がある。実際、日本のインテル本社の1つである「つくば事業所」は震源に近かったこともあり大きな被害を受けていたようだ。ただITインフラ自体は問題なく動いていたこともあり、社員には在宅勤務の形で必要な機能はクラウドベースで利用するよう指示を出したことで、滞ることなくほぼ通常通りの形で業務を遂行できたと富澤氏は説明する。クライアントのモバイル対応やアプリケーションのクラウド化だけでなく、ソフトウェアベースの電話やSNSを活用することで、在宅であってもオフィスと大きく変わらない環境が構築されていたのがポイントだということだ。

2011年は3月の大地震で同社つくばオフィスも大きな被害を受けたが、すぐに在宅勤務に移行して業務停止時間を最小限度に抑えたという

こうした一方で、新しいタイプのオフィス環境の整備も進められていると同氏は説明し、最近オープンしたばかりの新オフィスの一部を紹介した。例えばオフィスの机は固定ではなく、自由に移動して作業できるフリーアドレスデスクが採用され、社員同士が気軽にコミュニケーションやミーティングを行えるスペースの設置などが行われているという。また電話スペースというものが用意されている。公衆電話や内線があるわけでもないのに奇妙な感じだが、内線代わりの携帯電話やPCを持ち込んで、クローズドなスペースで外部との電話やミーティングを行えるスペースとなる。基本的にデスクまわりや休憩室がオープンなスペースなので、逆にクローズドで対面以外の相手と話しやすいスペースを確保したものと思われる。近年では外資系企業を中心に筆者もよく見かけるスタイルのオフィスということで、生産性向上を念頭に置いた施策の1つだといえるだろう。

地震への対策だけでなく、新オフィスに関する提案も進んでいる。例えばフリーアドレス制のデスクやミーティングスペースの新設など、新しい試みも