理化学研究所(理研)は、日本人集団を対象に、川崎病に関するゲノムワイド関連解析(GWAS)を行ない、発症に関わる3つの遺伝子領域を新たに発見したことを発表した。同成果は理研 ゲノム医科学研究センター 循環器疾患研究チームの 田中敏博 チームリーダー(副センター長兼務)、尾内善広 客員研究員を中心とする多施設共同研究によるもので。科学雑誌「Nature Genetics」への掲載に先立ち、オンライン版(3月25日付け:日本時間3月26日)に掲載された。

川崎病は、乳幼児を中心に発症する原因不明の発熱性疾患。全身の中小の動脈に生じ、大半が自然に治癒するが、心臓の冠状動脈瘤(りゅう)などの合併症が生じることがあり、先進国における小児の後天性心疾患の最大の原因にもなっている。

「川崎病」という病名は、水俣病のように発症があった地域から名付けられたのではなく、1967年に、当時日本赤十字社医療センターの小児科医だった 川崎富作 博士(現川崎病研究センター理事長)によって初めて報告されたために付けられた。

未だに原因となる菌やウイルスは特定されていないが、日本をはじめ韓国、台湾など東アジア人に発症例が多いこと、家族内での発症が多いことから、遺伝的要因が関与していると考えられている。

実際、ゲノム医科学研究センターの研究グループは、これまでも遺伝的要因からの研究により、2007年にITPKC遺伝子、2010年にCASP3遺伝子が川崎病に関わっていることを発見している。

今回は、川崎病の発症のしやすさに関わる他の遺伝子を発見するため、日本人の川崎病患者428人と非患者3,379人を対象に、ヒトゲノム全体に分布する約47万個の一塩基多型(SNP=Single Nucleotide Polymorphism、ヒトゲノムの個人間の違いのうち、集団での頻度が1%以上のものを遺伝子多型と呼び、代表的なものとして一塩基の違いによる一塩基多型がある)のGWASを行なった。(図1)

GWASは、遺伝子多型を用いて疾患感受型遺伝子を見つける方法の1つ。ある疾患の患者とその疾患にかかっていない被験者の間で、多型の頻度に差があるかどうかを統計的に検定して調べる。検定の結果得られたP値(偶然にそのようなことが起こる確率)が低いほど、関連が強いと判定できる。

図1 川崎病の発症しやすさに関するゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果。日本人の川崎病患者428人と非患者3379人についてのゲノムワイド関連解析の結果。横軸をヒトゲノム染色体上の位置、縦軸を各SNPのP値(偶然にそのようなことが起こる確率)として解析結果をプロット。上方に行くほど川崎病の発症しやすさとの関連が強いことを示す。研究グループがこれまでの研究で発見した川崎病の関連遺伝子の領域(赤字)に加え、今回新たに3つの関連遺伝子の領域(青字)を発見した

さらに、川崎病との関連の傾向が認められたSNPの中から上位100個を選抜し、別の2集団(患者:計754人、非患者:計947人)で関連の再現性を検証した。

その結果、新たに「FAM167A-BLK」、「CD40」、「HLA」の3つの遺伝子領域のSNPが川崎病と強く関連することが分かったと言う(表1)。

このうち、FAM167A-BLKとCD40の遺伝子領域は、成人期に見られる関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患とも関連することが知られている。

また、2011年に別の研究グループが白人集団で実施したGWASでは、HLAの遺伝子領域と川崎病の関連は見られなかったことから、人種によって関連する遺伝的要因に違いがあることも示唆している。

表1 新たに同定した3つの遺伝子領域のSNPと川崎病との関連。ゲノムワイド関連解析において関連の強かった上位100個のSNPのうち、3つにおいて別の患者・対照集団でも遺伝子型頻度の違いに再現性があることが確認された。FAM167A-BLK、HLA、CD40の遺伝子領域における危険対立遺伝子を持つと、それぞれ約1.72倍、1.47倍、1.35倍(オッズ比)川崎病を発症しやすくなる(オッズ比:ある集団での発症リスクを表す指標の1つ)

今回の成果は、複数の成人期の自己免疫性疾患に共通な病態が川崎病にも当てはまる可能性を示しており、不明な部分が多い川崎病の病態の理解や新たな治療法の開発に加え、川崎病の発症が東アジア人に多い原因の解明へつながることが期待できると言う。