東京大学情報基盤センター 丸山一貴 助教

東京大学情報基盤センターは3月23日、先進的な情報インフラを活用した次世代の教育や高度な研究ネットワーク構築を目的に教育用計算機システム(以下、ECCS2012)を刷新し、2012年3月から運用を開始したと発表した。

東京大学情報基盤センター 助教 丸山一貴氏より、刷新した教育用計算機システムの概要について説明がなされた。今回、教育研究用として導入された端末は1,321台で、ほぼ半数ずつ、駒場キャンパスと本郷キャンパスに、残りのごく少数が柏キャンパスに配置されているという。メールや印刷といったサービスを利用できるアカウントが約4万個発行され、これとは別に最大約2万6,000個のメールアカウントに対応可能だ。

「メールアカウントは学内の利用者から申請を受けて提供しているので、増加のペースを見込むのは難しい。過去の利用歴から算出した。今回のシステムのポイントは少ない運用管理者で大規模なシステム、大人数のユーザーを管理できること」と同氏。同システムをサポートする常勤職員は、駒場に3名、本郷に3名の合計6名のみだ。

東京大学情報基盤センターの教育用計算機システムの概要

NEC 文教・科学ソリューション事業部 グループマネージャー 岸克政氏

ECCS2012の詳細は、NECとEMCジャパンより説明が行われた。NEC 文教・科学ソリューション事業部 グループマネージャーの岸克政氏は同システムのコンセプトとシステム構成を紹介した。

岸氏は、「大学教育用システムは、卒論提出などの時期に負荷が急増したり、授業や端末利用者が多彩な状況に対応可能な演習室システムが求められたりと、パフォーマンスと容量と消費電力のバランスが重要。加えて、多数のIDと端末を効率的に運用管理できることが必須」としたうえで、今回のシステムのコンセプトの要点は大きく2つあると述べた。

1つ目のポイントは「利用者の利便性を追求」だ。学内に向けては演習室環境の充実、学外に対してはリモートアクセスに対応するなど利用機会の拡大を図る。2つ目のポイントは「情報基盤の運用の効率化」で、パフォーマンスと容量と消費電力のバランスを保てるプラットフォームと管理者の負荷を低減する運用管理製品で対応する。「2つのポイントを満たすには、NECの製品だけは難しく、われわれのシステムインテグレーション力を生かし、複数のベンダーの製品を組み合わせて導入した」と、岸氏は説明した。

東京大学情報基盤センターの教育用計算機システムのコンセプト

続けて、同氏はそれぞれのポイントを実現するシステム構成と導入成果を紹介した。「利用者の利便性を追求」するにあたり、iMacによってMacとWindowsのデュアルブートを実現し、どこの教室でもWindowsとUNIXが使える環境が構築された。また、富士ゼロックスのネットプリントサービスを活用して、ECCS2012の端末からの出力を全国のセブン-イレブンで受け取ることが可能になった

学外からECCS2012デスクトップ環境へアクセスできるようにするため、Mac mini 30台が用意され、同時に30人がリモートアクセスを行えるほか、ネットプリントサービスを使って、自宅からECCS2012の複合機やセブン-イレブンでの出力も行える。

東京大学情報基盤センターの教育用計算機システムの全体像

「利用者の利便性を追求」するというコンセプトを実現するためのシステム構成

「情報基盤の運用の効率化」については、プラットフォームと運用管理製品で実現。プラットフォームとしては、大容量のSATAディスクを組み入れることでディスク数を、また、サーバの仮想化によりサーバの物理台数を削減した。駒場キャンパスと本郷キャンパスでレプリケーションを行ってデータの2重化することで、災害対策を整備するともにバックアップ作業が不要になった。

運用管理製品としては、「Kaseya」と「Total Manager for Mac」を組み合わせ、2つの異なるOSのアップデートやシステムイメージの配信、監視などを集中管理するとともに、NECの統合認証サービス「WebSAM SECUREMASTER/EDS、EIM、EAM」により、これまでは個別にログインしていたWebアプリケーションへのシングルサインオンを実現した。

岸氏によると、これまでID管理は独自で開発したツールで行われていたが、今回、ID管理業務のフローから見直すことで、内製していたツールを2割程度にまで減らし、運用管理の負荷が軽減されたという。

「情報基盤の運用の効率化」するというコンセプトを実現するためのシステム構成

EMCジャパン マーケティング本部長 糸賀誠氏

EMCジャパン マーケティング本部長の糸賀誠氏からは、ストレージ基盤について説明があった。「今回、『ストレージのパフォーマンス改善』『ストレージの消費電力とコストの削減』『災害対策の仕組みによるバックアップ体制の強化』という要件があった」と糸賀氏。これらの要件を満たすうえで、カギとなったのは自動階層化ソフトウェア「FAST VP」と災害対策ソフトウェア「Replicator」だ。

具体的には、FASTによって「SATA」「ファイバチャネル」「フラッシュドライブ」という3種類のドライブに対し、アクセス頻度に合わせたデータの自動保存が可能になり、ディスクのパフォーマンス、ストレージに要するコストと電力の最適化が図られる。「Replicator」では、10分のRPO(目標復旧時点)が設定されており、万が一、障害が発生した時は10分前のデータを復旧することが可能だという。

東京大学情報基盤センターの教育用計算機システムのストレージ基盤

駒場キャンパスのサーバルームの様子

駒場キャンパスの演習室の様子。右の画面は端末のトップ画面