松谷化学工業の希少糖(レアシュガー)研究チームと、香川大学希少糖研究センターの何森健 特任教授による研究グループは、希少糖の一種で、ノンカロリーで甘味度が砂糖の7割程度である「D-プシコ-ス」が、線虫を用いた実験で平均20%の寿命延長効果(アンチエイジング効果)を有することを確認したと発表した。同成果の詳細は、3月23日に開催された「日本農芸化学会 2012年度京都大会」にて発表された。
摂取カロリーの制限によって寿命が延長することが、線虫、ショウジョウバエ、マウス、サルなど多くの実験動物で知られている。人においてもカロリー制限は加齢性疾患の発症を遅らせ、寿命を延ばすと考えられている。しかし、生涯にわたってカロリー制限食を続けることは困難であるため、食事と一緒に摂取することでカロリー制限と同様の効果が得られるカロリー制限模倣物質(calorie restriction mimetic)の開発が注目されている。
現在までに、いくつかのカロリー制限模倣物質の候補が報告されており、例えば、解糖系酵素の阻害剤「2-デオキシ-D-グルコース(2-deoxy-D-glucose)」、サーチュイン(Sirt、サーチュイン遺伝子)を活性化するポリフェノールである「レスベラトロール(resveratrol)」などがある。しかし、食品素材として効果的で安心・安全なアンチエイジング物質の開発には検討の余地があるため、研究グループでは、D-フルクトースのC3エピマーである希少糖の一種で、ノンカロリー甘味料の「D-プシコース」がカロリー制限模倣物質として働き、動物の寿命を延長する効果がある可能性を想定。モデル生物である線虫(シーエレガンス:C.elegans)を用いてD-プシコースの寿命延長効果の確認と、その作用メカニズムに対する検討を行った。
線虫シーエレガンスとしては、野生株N2と酸素高感受性mev-1変異体を用いた。同調培養によって得られた若成虫を、D-プシコースを含む液体培地へ移し、20℃で振とう培養し、一日おきに観察、生死を判定し、生きている線虫のみを新しい培地に移しかえ続け、すべての線虫が死ぬまで培養を続け、平均寿命を算出した。
これらの線虫に対し、リアルタイムPCR法を用いて酸化ストレス関連遺伝子(SOD、カタラーゼ)の発現量を測定したほか、これら酸化ストレス関連酵素の酵素活性の測定を行った結果、野生株N2において、28mM D-プシコース処理線虫の平均寿命は25.1日(対照区20.9日)となり20%の延長が認められたという。
また、リアルタイムPCR法の結果から、ミトコンドリア性マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(Mn-SOD)とカタラーゼの発現量上昇が認められ、それらの酵素活性も上昇していることが確認された。
そのため、研究グループでは、これら結果から、D-プシコースによる寿命延長は、線虫の酸化ストレス耐性を上昇させることで引き起こされたものとであると考えられるとしており、松谷化学では、今度も希少糖の抗肥満、抗糖尿病、抗動脈硬化、抗酸化、アンチエイジングをはじめとするさまざまな作用の解明を進め、希少糖の普及を目指していくとしている。