東京工業大学(東工大)は、コンピュータグラフィクス(CG)映像を用いて、対峙状況にあるアスリートの知覚に関して「身体モデルのデフォルメ化が動作識別を変容させる」ことを実験で明らかにしたと発表した。
成果は、東工大の井田博史研究員、福原和伸研究員、石井源信教授らのグループによるもの。詳細な研究内容は、日本時間3月17日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。
「心理物理学」の分野では、従来から「生体動作(バイオロジカルモーション)」に対する判別能力の研究が進められる一方、スポーツのような高いスキルが要求される状況での予測や判断にも研究的関心が寄せられてきた。
その中で、昨今の視覚化技術の発展により、CG映像やヴァーチャル空間におけるヒトのコミュニケーション形成やスキル学習に関する研究が年々増加している。
また、ゲームやエンターテイメントの分野において、キャラクターの「リアルさ」が話題になることは少なくない。一方で、スポーツを模擬したゲームなどにおいては、逆にデフォルメされたキャラクターが用いられることも多い。
研究グループは「リアルな」スポーツ場面呈示について調べており、今回の研究では身体モデル簡略化の効果について検証することを着想した。実験には、スポーツ知覚運動スキル研究に広く用いられてきたテニスの「サーバー・レシーバー課題」が採用されている。
そしてCG映像と独自の動作変調計算法を用いて、テニス経験者21名(競技歴は平均で7.2年)と初心者21名にサーブ動作映像を呈示し、相手動作に対する識別能力が調べられた。
具体的には、実験参加者にポリゴンモデル(色彩・形状情報再現)、影モデル(色彩情報が欠落)、棒モデル(両情報が欠落)の3種類CG映像(画像)を見せた後、変調された関節運動(手首、肘、肩)を3択で回答し、さらに主観的にスイングスピード(0-100段階)を評価してもらうという内容である。
その結果、経験者はポリゴンモデルと比較して、棒モデル呈示において動作識別の成績が向上することがわかった。またスイングスピードはテニスの経験に関係なく、ポリゴンモデルより棒モデルで遅く知覚された。これによって身体モデルのデフォルメが動作識別に影響することが実証されたというわけだ。
研究グループは今後、スポーツ場面呈示における、ほかのCGやヴァーチャルリアリティの効果検証へと展開する一方、実際のパフォーマンスとの関係性も合わせて検討を進めていく予定としている。
また、将来的にはヴァーチャルリアリティなどスポーツ学習者を対象とした電子化トレーニングシステムにおける有効な呈示方法の開発にもつながると、コメントした。