京都大学(京大)は3月15日、同大学が57年間1400世代にわたって暗闇で継代飼育してきたショウジョウバエ、通称「暗黒ショウジョウバエ(暗黒バエ)」の全ゲノム(遺伝情報)を解読し、野生型と比較して5%の変異があることを確認したと発表した。

成果は、京大理学研究科生物科学専攻グローバルCOE特別講座の布施直之研究員らと、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所、ハーバード大学の研究者らの国際共同研究グループによるもの。詳細な内容は、米オンライン科学誌「PLoS ONE」に米国太平洋時間3月14日付けで掲載された。

生物は地球上のさまざまな環境に適応し進化してきた。チャールズ・ダーウィンは「自然選択」という進化のメカニズムを提唱したが、進化の分子メカニズムには未だ多くの謎が残されている。そこで、布施研究員ら研究グループは今回、暗黒バエの全ゲノムを解読して、環境適応の分子メカニズムに迫る研究を行った。

1400世代(単純に人に置き換えた場合、1世代を25年として計算すると、1400世代は3万5000年になる)を数える暗黒バエだが、野生型のハエと比べて形態的に大きな変化はない。そこまで変化を起こすほどの世代を経ていないのかも知れないし、暗闇という環境そのものが形態的な変化を起こさせるほどの要因ではないのかも知れないが、少なくとも外見的な変化は生じていないようだ。

しかし、繁殖率を測定したところ、暗黒バエは明所より暗所で多くの子孫を残していることが判明した。いってみれば夜型というか、暗所の方が生きていきやすい体質になったということだろう。この事実から、暗黒バエは行動や代謝を変化させ、暗所に適応している可能性があることが推定されたのである。

そして暗黒バエの全ゲノム配列を解読したところ、約20万の変異が発見された。集団内のゲノムの構成を調べてみた結果、約5%の変異が暗黒バエの歴史の中で選択されてきたことも明らかとなった次第だ。これらの変異には解毒酵素の遺伝子が多く含まれているという。

この5%、約20万の変化の詳細はまだわかっていないようだが、布施研究員らは、暗黒バエは解毒代謝が変化しているのかも知れないとコメントしている。

暗黒ショウジョウバエ(右)は野生型ハエ(左)と比較して、形態的に大きな変化はないが、ゲノムには多数の変異が残っている