ネットプリントと言うと、安いだけにある程度印刷工程が簡略化されていたり、サポートがしっかりしていないんじゃ……、そんなイメージがありませんか? 本記事では、そういったネット通販を使うときの不安な点を私たちデザイナーユニットTRICKYが、ネットプリント会社代表としてアルプスPPSさんに聞いてきました☆
トリッキー(以下、ト)こんにちは~。
アルプスPPSさん(以下、ア)こんにちは~。
(ト)早速なんですが、ネットプリントの価格が安いのは、通常の印刷よりも手間をかけずに簡単に印刷されてるんじゃないの? とか、安い機械を使ってるんじゃないの?とか考えてしまって、、、。
(ア)そんなことありませんよ笑。弊社ではハイデルベルグ社をはじめ各社の製品の中でも最上位ランクに位置づけられている印刷機を使用しています。また、オペレーターはみんな老舗印刷会社(本社)で10年近く修行を積んだ熟練の職人たちが務めているんです。具体的には、菊四裁から菊全8色機までの複数の印刷機を使い、雑誌などにも使用されるオフセット印刷で印刷ネット通販を手がけています。現在はほぼ100%オフセット印刷で事業を行っていますが、今後、小ロットの印刷をよりコスト抑えて素早く仕上げられるよう、お客様の細かなニーズに対応するべくオンデマンド印刷も春頃の投入を予定しています。
(ト)トリッキーでも印刷物を制作する時はほぼオフセットです!やっぱり信頼度が高いですよね。正直、オンデマンド印刷って版を使わない簡易的な印刷だけに、オフセット印刷に比べて、なんとなく印刷が粗いイメージがあるのですが……。
(ア)従来のオンデマンド印刷で使われていた印刷機はそうだったかもしれませんが、最新のオンデマンド印刷の上位機種は、昔と異なりオフセット印刷に迫る美しい印刷をすることが可能になっているんです。そういったものを導入し、オフセット印刷では実現出来なかった100部以下の印刷などにも、今後は高品質でお安く対応出来るようにと考えています。
(ト)印刷機も日々、進化を遂げているんですね。機会があれば是非オンデマンド印刷も利用してみようと思います! ところで、素朴な疑問なんですが、これまで御社へ実際にあった依頼のなかで、「これは大変だった!」という依頼のエピソードを教えてください。
(ア)そうですねぇ。例えば真っ赤なベタ面の中に人物の写真が入っている印刷物の場合、ベタ面全体に対して赤の色味を出さなければいけないのですが、この場合、色の濃淡のみで背景と人物を表現しなければいけません。そうなると、人物の顔色が赤くなり過ぎずに真っ赤なベタ面を作るインクのバランスってかなり難しいですよ。
(ト)え!? インクって各色をかけ合わせているんですか!!?
(ア)え!?……もちろん笑。それに難しいのはかけ合わせの割合だけでは無いんです。基本的には、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの順にひと版ずつ1枚の紙に刷り重ねていきます。この4色が1枚の紙の上に重なる事で印刷物が出来上がるのですが、1版が0.1mmズレるだけでも色調が変わってしまったり毛抜き文字が埋まってしまったりと印刷の精度が落ちてしまいます。なので、ルーペで細かいチェックをします。また、色のチェックには正確性が求められるので色評価用蛍光灯を用いて行っています。インクの量は、少し多かったり少なかったりするだけでお客様のご要望通りの印刷物が出来ません。また、時間が経つと色が変わってしまうような紙を使用する場合は、ある程度予測しながらインクの量を調整しつつ、思い通りの色が出るまで何百枚も印刷し、本番の印刷に臨みます。
(ト)えーと……すいません。イメージと全然違うのですが、機械の操作だけでなく、依頼ごとに色の配合を人の手で行っているということですか??
(ア)オフセット印刷は、思い通りの色を出すのに半人前だと数千枚も印刷して色を調整することになりますが、腕の良い職人はその色を素早く正確なバランスで印刷する事が出来ます。それには色を見るセンスと長年の経験と勘、判断力、決断力が無ければなりません。そういった面から、コストを押さえつつ品質を保つために、弊社の職人は、老舗の印刷関連会社で修行した印刷のプロのみがオペレーターとして対応しているんです。
印刷会社から頼りにされちゃう魅力とは?
(ト)そうなんですか! たった数百枚しか印刷をお願いしていなくてもそんなにたくさん印刷してもらっているなんて!! じゃあ「もっとこんな色にしてほしいです~」とかワガママを言う私達みたいな注文の多いデザイナーを相手するのは、正直大変ですか?
(ア)いいえ、そんなことはありません。「何を一番重視して印刷を仕上げてほしいのか」を明確にしていただいた方がやりやすい場合が多いんです。「顔色を自然に」とか「背景を鮮やかに」とか「食べ物を美味しそうに」など、原稿入稿時に備考欄にご要望を明記して頂いた方が、オペレーター(職人)としては助かります。
(ト)え!!!美味しそうに出してくださいってお願いも出来るんですか!?
(ア)美味しそうに印刷するためには、そもそもお客様のイメージを反映したデータをちゃんと作っていただかなければいけないのですが、お客様の好みもありますが、多少であれば印刷機の赤インクを増やすなどして、理想の色に近づけられるように心がけて対応しています。最近では特色インクを調色機で済ませる業者も増えているようですが、それだけでは及ばない部分もあります。特色インクを作る場合、ディックカラー(色の見本帳)に数字が書いてあるので、それ通りに配合すれば良いとされているのですが、紙質や湿度、インクの硬さ、その他の条件で意外とそのままでは見本の色が出ない場合もあります。そこで、うちでは特色インク専門の職人が色を目で確かめながら調色をしています。
(ト)もう感動です(泣)。正直ここまで人の目でチェックされて人の手で作られているとは思っていませんでした。「注文の4割が同業から」という信頼を勝ち取る理由には、このような一人ひとりの職人さんの技術力の高さと腕とこだわりがあるからなんですね。ちなみに、お客様からのよくある困った質問は何ですか?
(ア)家庭用のインクジェットプリンタと印刷機での印刷は出力方法が異なります。そのため、インクジェットの印刷物と同じ色にしてほしいといったご要望や、パソコンのモニターで見た色のままで出してほしいというご要望はやはり難しいですね。特にパソコンのモニターは機種によって色の表現が異なりますし、光の三原則であるR(レッド)G(グリーン)B(ブルー)のデータで色が表現されているので、C(シアン)M(マゼンタ)Y(イエロー)K(ブラック)で色を表現するオフセット印刷で、厳密に同様の色を出すのはとても困難なことなんです。
(ト)そりゃそうですよね。でもネット印刷という業界では、印刷の知識が無いお客様も多いと思うので、より良い印刷物を仕上げるためにはユーザー自身が印刷への理解を深めてもらう必要がありますね。私たちも以後気を引き締めます。本日は、下町の職人魂を感じる熱いお話を聞かせてくださり、ありがとうございました。