横浜市立大学 学術院医学群の松本直通教授(遺伝学教室)、宮武聡子 同大学院生らの研究グループは、重症型もやもや病の予測因子となる遺伝マーカーを発見した。研究成果は、米国時間2月29日(日本時間3月1日)に、米科学雑誌「Neurology」オンライン版に掲載された。

もやもや病は、特定の脳主幹動脈の狭窄性変化と脳底部の異常血管網を呈する疾患で、若年性の脳虚血発作や脳出血の原因として、日本をはじめとした東アジアで特に頻度の高い疾患。慢性に進行すると脳虚血や脳出血を繰り返し、神経学的機能障害や知能低下をきたす。特に、発症年齢が早く初発時より重篤な脳梗塞を呈し、急速に進行して著しく予後不良の重症群が存在することが臨床的に知られていた。

このような後遺症をきたす前に早期の外科的な血行再建を行なうことで、機能障害を残すことなく治療可能と考えられるが、若年者への血行再建術はそれ自体が周術期の脳卒中のリスクとなり得るため、早急な手術適応のある症例を早期に抽出する指標が求められていた。

もやもや病には何らかの遺伝学的因子の関与が想定されていたが、2010年に東北大学の呉繁夫教授らのグループがもやもや病の疾患感受性遺伝子として「RNF213」を同定した。

今回の研究で、松本教授らのグループは、日本人のもやもや病患者204名について、RNF213遺伝子の解析を行ない、もやもや病の臨床症状との関連を検討した。その結果、「14576多型(c.14576G>A)」が、家族歴のあるもやもや病症例の95%、孤発性症例の79%にみられることがわかったという。

また一般日本人集団の1.8%がキャリアであることがわかり、この多型を持つことによるもやもや病発症のリスクは259倍と算出された。この多型を有する症例について詳細にみると、ヘテロ接合体(父母由来の遺伝子座のどちらか一方にのみ変異がある状態)、ホモ接合体(父母由来のそれぞれの遺伝子座の両方に同じ変異がある状態)の2通りが存在した(図1)。

図1 RNF213遺伝子14576多型

さらにホモ接合体群では、ヘテロ接合体群に比べ発症リスクが極端に大きく、その発症確率が78%以上であること、発症年齢が有意に早く、初発症状が重篤な脳梗塞であり、病変の範囲がより広範であるなど、従来臨床で経験的に知られていた重症型に一致することが判明したという(図2)。

図2 RNF213遺伝子14576多型ともやもや病発症年齢の相関

今回の研究は、RNF213遺伝子ともやもや病との強い関連をあらためて裏付けただけでなく、14576多型が重症もやもや病を予測する遺伝マーカーであることを新たに見出すことになった。

研究グループではこの成果について「臨床現場において、もやもや病患者の中で早期の外科的治療が優先されるケースを抽出する1つの判断材料として、あるいは、もやもや病の発症前からのモニタリングや、発症前治療といった予後の大きな改善につながる新しい治療戦略にも大い寄与しうるものと期待される」としている。

なお、今回の研究は、同大の先端医科学研究センターが推進している研究開発プロジェクトの1つで、同大医学研究科の他に、東保脳神経外科、東北大学医学部、東京女子医科大学 統合医科学研究所、利根中央病院 脳神経外科、大阪母子保健総合医療センター遺伝診療科、市川市リハビリテーション病院リハビリ科との共同で実施されたもの。