austriamicrosystems(AMS)は3月5日、日本の顧客へのサポート強化を目的に品川に新オフィスを開設した。新オフィス開設にあたり、同社 CEOのJohn A. Heugle氏が同社の事業戦略と日本での事業展開について語った。
3つの高性能アナログ技術を3つの市場領域に展開
AMSは、「センサ&センサインタフェース」、「パワーマネージメント」、「ワイヤレス」の3つの技術分野の高性能アナログソリューションを産業機器&医療市場、自動車市場、民生&通信市場向けに展開している。2011年の全社売上に占める製品比率は、産業機器&医療市場向けが39%、自動車市場向けが13%、民生&通信市場向けが48%となっている。
産業機器&医療市場向け製品は、センサ&センサインタフェース分野として、産業用オートメーションおよびコントロールセンサ、ロータリおよびリニアの磁気エンコーダなどを提供している。自動車市場向け製品は、センサ&センサインタフェース分野として、ガスペダルやギアボックスなどの位置センシング、バッテリーパワーマネージメント、歩行者検知などのセーフティシステム向け製品を提供している。民生&通信市場向け製品は、センサ分野として光センサ、照明マネージメント、MEMSマイクなど、ワイヤレス分野としてRFIDなどを提供している。
顧客の要求に合わせて革新技術を提供
AMSの全世界の従業員は1200人で、そのうち300人以上のアナログエンジニアを抱え、世界8カ所にデザインセンターを設けている。グローバルな販売ネットワークについては、主要国すべてにセールスオフィスを設けている。顧客は6500社を超えており、年間1000社のペースで加速度的に増加している。顧客には10~15年の長期のロードマップを提供し、提携関係を強めており、日本では富士通エレクトロニクスと長期にわたり提携している。また9割以上の顧客にとってAMSがシングルソースのサプライヤーとなっているという。
AMSの2011年の売上高は前年比32%増の3億8300万ドルで、2012年は同25%以上の成長を見込んでいる。同社のようにそれほど規模の大きくない会社がグローバルに成功をしている理由として、CEOのJohn A. Heugle氏は「顧客が抱えている最も難しい問題に対して、革新的なアナログのソリューションを提供することに特化している」と語った。
AMSのアナログICは、超低消費電力、高精度、高集積を特長としているが、例えば医療市場向けでは低ノイズ製品を実現する設計のノウハウを有している。同社のCTスキャン用センサは、患者がCTスキャンで受ける放射線量を従来の1/6に減らしながら、検出感度を高めている。低ノイズについては80%の世界シェアを有するMEMSマイクの技術が使われており、他の分野で培った高い技術を展開できる強みを生かしている。また、福島第一原子力発電所の内部写真を撮るために投入されたiRobot製の偵察ロボット「Packbot」にも同社のエンコーダが使用されているという。
さらにAMSでは、ASICを得意としている。自動車市場向け製品売上の70~80%、産業機器および医療市場向け製品売上の90%がASICとなっている。競合他社が汎用品を提供するところをAMSはASICを提供することで顧客の細かいニーズを対応する。
製造は自社工場とファウンドリを柔軟に併用
AMSは、高性能アナログソリューションを提供するため優れた設計と優れた製造の融合が必要であると考え、自社ファブを保有し設計と製造の両方を手掛けている。設計、製造をはじめフルサービスを提供できるフルバリューチェーンを構築し、顧客の要望に合わせて柔軟に対応している。
オーストリア本社に200mmウェハ対応の0.35μmプロセス工場を有し、年間の生産量は10万枚以上となっている。特殊なセンサ&センサインタフェースを希望する顧客向けには、ファウンドリとしてシリコン貫通ビアなどの特殊プロセスによる受託生産を行っている。全売上の10%がファウンドリサービスの売上となっている。ファウンドリサービスを通じて顧客と長期的な関係を構築できるため、売上は少ないが重視しているという。
自社製品の60%程度は自社ファブで生産するが、残りは外部ファブ(ファウンドリ)も活用している。TSMCとは技術移転の契約を交わしており、TSMCでAMSと同じプロセスを展開できるという。また、IBMにはAMSの高耐圧プロセス技術をライセンス供与しており、共同開発した0.18μm高耐圧プロセスの製造をIBMで行っている。ファウンドリを活用する理由としては、顧客の為替リスクを低減する配慮がある。顧客が米ドルで取引したい場合はファウンドリを活用し、ユーロで取引したい場合は自社ファブで生産し、顧客の要望に合わせて柔軟に対応する。
なお、アセンブリについてはアジアのメーカーに委託し、テストについては本社工場とフィリピン工場の2拠点で行っている。
成長する日本市場へのコミットメントを強化
AMSの全社売上のうち、日本を含むアジアの割合は2007年時点で23%だったが、2011年には46%まで拡大しており、同社のビジネスにおけるアジア市場の成長は強くなっている。日本市場の成長も他のアジア市場にほぼ比例している。日本が支配的な市場領域もあり、この3年で日本市場における新規案計は5倍に増えている。日本においてもASICの強みを生かして新たなビジネスを獲得している。
アジア市場での成長は、単に営業所を設けるだけでなく、「品質、人、ソリューション、システムを含めたフルサポートインフラを構築し、顧客との関係を深めてきた結果」(John Heugle氏)であるという。今回の新オフィス開設も日本において今後さらに続く長い取り組みの一歩と位置付けている。
新オフィスは、これまで田町にあった旧オフィスと比べて面積は2.5倍に拡大。この拡大したオフィススペースを利用し、品質保証ラボ(QA Lab)を開設する予定で、2012年上期中に測定器を導入し、年内に立ち上げ、2013年に稼働を開始する計画。日本市場における新規案件の70%が自動車市場向け製品であり、日本の自動車市場では24時間以内の初期不良解析を求められるため、QA Labを設け、顧客の要望に対応できる体制を構築することが背景にある。また、継続的な品質保証も行っていくとしており、これらの取り組みにより、AMSでは日本市場に対するコミットメントをさらに強化していくとしている。