基礎生物学研究所(基礎生物研)は、アフリカツメガエルを用いた研究により、神経管の形成には、神経にならない周囲の組織の細胞運動が必須であることを具体的に明らかにしたと発表した。成果は、基礎生物学研究所の上野直人教授や森田仁研究員らの研究グループによるもので、詳細な研究内容は専門誌「Development」4月1日号での掲載に先立ち、電子版に2月29日に掲載された。

ヒトを含めた脊椎動物は、頭から体の背中側にかけて脳と脊髄からなる中枢神経系を持っている。中枢神経系は体を動かしたり、体内のほかの臓器の働きをコントロールしたりする重要な器官で、受精卵から体が形作られる時に最も早く作られる器官の1つだ。

中枢神経系の形成は、体の背中側にできる「神経板」と呼ばれる板状の組織が体の内側にくぼんで溝(神経溝)を作り、「神経管」と呼ばれる管状の構造に変形するところから始まる(画像1)。この神経管の形成が上手くいかないと、脳や脊髄の形成異常の原因となってしまう。

画像1。アフリカツメガエルの神経管形成

この神経管の形成運動はヒト、鳥、カエルなど脊椎動物でほぼ同じように起こる。このように神経管形成は、多くの脊椎動物に共通する、中枢神経系を作るための重要なステップだ。

研究グループは、神経管の元になる神経板の細胞について、管を形成するために必要な細胞変形の仕組みをこれまでに明らかにしてきた。今回の研究では、神経管にはならない周囲の組織である「非神経外胚葉」の細胞運動も、神経管形成に必須であることを明らかにした次第だ。

基礎生物学研究所が欧州分子生物学研究所(EMBL)から導入した新型顕微鏡「デジタルスキャン光シート顕微鏡(DSLM)」を用いて同グループが神経管形成過程のアフリカツメガエル胚を観察したところ、非神経外胚葉(神経管にはならない領域の細胞)が神経管の方向に向かって速いスピードで移動していることが発見された(画像2)。

詳しく調べると、移動する非神経外胚葉の細胞層は2層あり、表層の細胞の下に存在する、深層の細胞層が、積極的に背側へと移動していることがわかったのである(画像3)。

画像2。DSLMによる細胞移動の解析

画像3。深層が表層を運ぶ「動く歩道」として働いている

この深層細胞の動きを、細胞接着や移動に関わる「分子インテグリン」を機能阻害することによって止めたところ、神経管の閉鎖は不完全なものとなった。また、胚の非神経外胚葉を完全に除去すると神経管閉鎖が阻害されることも確認されたのである。

この研究から、神経管ができるためには神経管を作る細胞が自律的に形を変えることに加えて、神経管にならない非神経外胚葉の細胞群の移動が管を閉じる過程を積極的に手助けしていることが明らかになった。

今回の研究によって、脊椎動物の中枢神経系が作られる初期の過程において、神経にならない組織も神経系の形成に重要な役割を持っていることが具体的に判明した次第だ。今回の研究の成果は、神経管閉鎖不全の細胞、組織レベルでの原因解明に寄与することが期待されると研究グループではコメントしている。