STMicroelectronicsは2月29日(現地時間)、Cortex-M0ベースのMCU「STM32F0シリーズ」を発表した。これにあわせて、3月1日に同社日本法人であるSTマイクロエレクトロニクスにて同製品の説明会が開催されたので、この内容をお届けしたい(Photo01,02)。
Photo01:製品ポートフォリオ全体の説明をされたPaolo OTERI氏(MMSグループ ディレクター) |
Photo02:STM32F0の詳細の説明をされた野田周作氏(MMSグループ マイクロコントローラ製品部) |
今回発表されたのは、STM32の中ではエントリレベルとなる、Cortex-M0をベースとしたMCUである(Photo03)。
Photo03:これで同社もCortex-M0/M3/M4の3つのコアでのポートフォリオを持つ事になった。ちなみに蘭NXP SemiconductorとかノルウェーのEnergyMicroなど、Cortex-M0/3/4全部をカバーした製品群を持つメーカーは少なくなく、ここにSTMicroelectronicsも仲間入りしたということだ |
同社はまずCortex-M3をベースとしたMCUを投入、2011年にはCortex-M4をベースにしたSTM32F4を投入して、どんどん売り上げを伸ばしてきており、ここでSTM32F0を追加することで更なる売り上げ増を目指す考えだ(Photo04)。
Photo04:詳細な売り上げ高そのものは公開されず。とはいえ、普及が始まるとレベレッジが掛かって急速に伸びるというのはよくある話であり、この勢いを大事にするためにも互換性のある製品群を投入するというのも、これまた常道 |
STM32F0のターゲットとされているのは、32bitのローエンドというよりも、既存の16bit MCUがターゲットとしているようなマーケットから、8bitのハイエンド向けといったあたりである(Photo05)。
ただ、このための方法論が面白い。まずリモコン向けに、Dual Clock CECや赤外線リモコン、容量式タッチセンサI/Fを搭載している。一方、モータ制御が必要な白色家電向けに、高速なI2C FM+や3個のタイマ(1つのタイマに4つのPWMモジュールが付く)、12bit ADC/DACといったモータ制御関連機器、さらにはIEC 60335-1 Class B対応の安全機能などが搭載されている(Photo07)。
一方のコアの性能であるが、DMAコントローラを工夫したことでCPUのコアの稼働中にもDMAを実行できるようにしている点が特徴である。ここではまた、8~16bit MCUとの性能比較を行っているのもこの製品の位置づけを示していると言える(Photo08)。
省電力関係に関してはVBATをこの製品でも追加したことを明らかにした(Photo09)。VBATはバッテリバックアップ用の電源で、Vccが仮にダウンしても、RTC及び20BytesのBackup Registerを保持できるというものである。VBATの利用時はVccが本当に0なので、長時間の待機時に消費電力をぎりぎりまで抑える効果があるという説明だった。
一般論としての周辺機器をまとめたのがこちら(Photo10)で、A/D・D/A、コンパレータ、タイマとPWM、容量式タッチセンサ、GPIOといった当たり前の機能が目に付くが、やはりHDMI CECやPMSMはちょっと異色ではある。
同社のSTM32F1 ValueLineや他社製品との比較をまとめたのがPhoto11である。USARTが最大6MB、GPIOがAHB直結の関係で最大トグル速度12MHz、というのもちょっと珍しい性能である。また安全性に関しては、先にも述べたとおりEN/IEC 60335-1 Class Bに対応を謳っている点が特徴である(Photo12)。これはヨーロッパにおいては家電製品などの最終製品が同規格を満たすことが求められており、これに対応するためにはMCUもやはり同規格を満たしていることが好ましいためだ。他にもパリティやWatchdog、CSSなどの機能が搭載されている。
開発環境としては、主要なライブラリは同社より無償で提供できるほか、CMSISにも準拠している(Photo13)。相変らず同社自身はIDEの提供は行わないが、その代わり日本系のベンダを含む幅広いサードパーティが開発環境の提供を行うとする(Photo14)。
Photo13:赤外線/モーター制御/HDMI CECが他のMCUとの差別化のポイントということもあって、当然これに関してはライブラリが提供される |
Photo14:リアルタイムOSがこのクラスの製品で必要かどうかはわからないが、一応eForceなどからも提供が予定されている、との事 |
ちなみに同社はおなじみDiscoveryシリーズにSTM32F0を搭載したモデルを7.99ドルで提供予定の他、全機能に対応した評価ボード(STM320518-EVAL)(Photo15)を199ドルで提供する。
さて、価格であるが、1000個あたりの価格は0.95ドルとされる(Photo16)。ただこれはローエンド品ではなく、比較的ハイエンドになる64KB Flash/64pin LQFPのSTM32F051R8の値段で、当然ほかのモデルはもっと価格が下がるという話であった(Photo17)。
Photo16:これだけ周辺機器を豊富に持ちつつ、ハイエンド品で$1をきるのは、やはりCPUコアがCortex-M0であることが一番大きい、という話であった |
Photo17:勿論今後開発予定の128KB/100pin品はもう少し価格が上がるとか。現在はSTM32F051R8のみサンプル出荷中で、ほかの製品は第2四半期中にサンプル出荷を開始する |
またSTは今回のSTM32F0シリーズをアメリカとフィリピンの2カ所で生産、供給することも明らかにしている(Photo18)。何かあっても供給が止まらないようにという配慮だそうである。
ということで、以下質疑応答などからちょっと補足。STM32F0はSTM32F1 Value Lineの更に下、という位置づけにあるそうだ。とはいっても、STM32F0のハイエンドはSTM32F1のローエンドと一部オーバーラップする。また同社のSTM8シリーズのハイエンドとSTM32F0のローエンドもやはり一部オーバーラップするが、どちらを薦めるというわけではなく顧客がニーズに応じて選ぶ形になるそうである。またSTM32F0に、更にValue Lineを設けるという予定は今のところないという話であった。
とはいえ、HDMI CECとブラシレスモーターの制御、という明らかに無関係な機能を搭載するというあたりのバランス感覚はなかなかに興味深い。同社としては、あくまで汎用マイコンとして使ってもらう事を期待しつつも、そのままだと同社のSTM32F1 ValueLineや他社のCortex-M0、あるいは8/16bit MCUとの価格競争になりかねない。そこで差別化として、他社がこのクラスのMCUにはなかなか搭載しない周辺回路を追加したという事である。これは例えばNXPがやはりCortex-M0ベースのLPC11U2xシリーズにUSBのクラスドライバの提供や、USBのVendor ID/Product IDを無償提供するという形でUSBデバイスの簡単な設計・製造に特化させている事などを思い出すと判りやすい。猛烈な激戦区になっているこのローエンド32bit MCUマーケットには、この位の差別化要因が無いと勝ち残れない、という現状の見本とも言える構成であった。