慶應義塾大学は、最先端の微生物検出法「メタゲノム解析」を用いて、湯野浜温泉(山形県鶴岡市)の源泉中から27種の多様かつ新規性の高い微生物を発見し、その中には生命誕生の謎を解く手がかりとして重要で、世界的にも特殊な微生物「Archaeal Richmond Mine Acidophilic Nanoorganisms(ARMAN:アーマン)」も含まれていたことを発表した。
成果は慶應義塾大学先端生命科学研究所の金井昭夫教授、同大学院生の村上慎之介氏(政策・メディア研究科修士課程)、及びアメリカ航空宇宙局(NASA)エイムズ研究所の藤島皓介研究員らの共同研究グループによるもので、詳細な研究内容は米国科学専門誌「Applied and Environmental Microbiology」のオンライン版に1月31日に掲載。また、3月10日から12日まで東京池袋で開催される第6回日本ゲノム微生物学会にて発表される予定だ。
日本における環境中の微生物は世界的にも特殊であり、これまでにも箱根の温泉などから重要な新種の微生物が発見された例がある。今回の研究で発見された27種の微生物はいずれも新種である可能性が高く、これまでの日本の温泉研究と同様に湯野浜温泉も特殊な微生物の宝庫であることが示された。
また、一般的に温泉の地下源泉といった外部と隔離された環境では2、3種の微生物が圧倒的多数派となっていることが多いのに対し、これら27種の微生物は系統学的に16種のグループに分類でき、生物としての性質が大きく異なることが予想されるさまざまな微生物が、単一の環境に共存しているという興味深い現象も見受けられた。これらのことから湯野浜温泉源泉が、今後の微生物研究に関して重要な材料となり、微生物研究の世界的な拠点になる可能性もあるという。
今回発見された微生物の中で特に注目すべきは、ARMANだ。この微生物は体長0.0002mmで、これより小さいと細胞として機能できないといわれており、生命と物質の中間的な存在ともいえるウイルスを除けば、世界最小の生物の1つといわれている。
原始生命の生き残りだと考える科学者もおり、生命誕生の謎を解く手がかりとして重要な生物として注目されている。これまでにARMANが発見されたのは、カリフォルニアの鉱山とフィンランドの沼地で、いずれも酸性~強酸性の環境でしか存在が確認されていなかった。しかし、今回の発見場所である湯野浜温泉は、pH8.1の弱アルカリ性であり、ARMANが地球上のさまざまな環境下で生息していることが明らかになったというわけだ。なお、ARMANには病原性はなく人間には無害なので、湯野浜温泉には問題なく浸かることが可能だ。