富士通と東北大学は、津波による浸水や河川の遡上を高い精度で計算できる3次元津波シミュレーションの共同研究について契約を締結し、主に市街地浸水、河川遡上のシミュレーションと、鉄筋コンクリートビルの被災メカニズム解明に貢献する技術の研究を開始することを発表した。
同研究では、富士通が粒子法を用いて開発した、大規模並列コンピュータ用の3次元流体シミュレーション技術と、津波研究の第一人者である東北大学大学院工学研究科附属災害制御研究センター長の今村文彦教授が開発した津波伝播の2次元シミュレーション技術とを連携・融合して、今村教授と共同で新たに3次元津波シミュレーション技術を開発する。
同研究の成果を堤防や避難ビルの設計や、ハザードマップ、避難誘導ガイドラインの開発などに活用することがで、信頼性の高い防災対策、減災対策の実現が期待でき、富士通は、同技術をコンピュータ処理に応用していくとともに、東日本大震災の被災地域の復興・新生に向けて、災害に強い地域社会の実現に向けた取り組みを、ICT面から継続的に支援していくとコメントしている。
2011年3月11日に発生した東日本大震災による津波は東北地方を中心に甚大な被害をもたらしたが、特に宮城県女川町などでの津波による鉄筋コンクリートビル倒壊は世界的にも例のない被害であり、そのメカニズムの解明が求められている。また、津波対策の1つとして津波シミュレーションの技術を、浸水の予測や施設の耐震性などの評価、建造物の被災メカニズムの解析などに活用することが、従来にも増して強く求められるようになってきている。
津波のシミュレーションは、以前から行なわれてきたが、建物に及ぼす津波の力の計算、市街地の浸水、河川の遡上のシミュレーションに関しては、建物や堤防などの3次元的な形状が津波の威力や遡上速度に影響を与えるため、それらの情報を盛り込んだ3次元のシミュレーションが必須となる。このようなシミュレーションには500台のPCを利用して並列計算を行うPCクラスタの技術を利用しても5日を要するほどの計算量であるため、これまではほとんど行なわれてこなかった。
今村教授は、震源から伝わる津波の伝播を解析する津波伝播の2次元シミュレーション技術を開発している。同技術は海岸部への津波の到達時刻や波高の計算に広く活用されているが、建物や地形の影響を大きく受ける津波による都市の浸水や河川遡上を扱うには限界があった。
一方、富士通は粒子法をベースとしたシミュレーション手法を、大規模並列コンピュータでのアプリケーションの1つとして開発を進めてきていた。粒子法は流体を多数の粒(粒子)の集まりとして表現する手法であり、他の解析手法が苦手としている砕波などの現象の解析を得意としている。同手法でシミュレートした波は、波が伝わる途中で徐々に減衰していくという課題があったが、新たに粒子法シミュレーションの減衰を抑える技術を開発し、この課題を解決。この改良により、正確に波の動きを再現可能な水槽実験結果と比較して10%程度の誤差で、波の動きを再現することに成功しており、同技術を津波による各種現象のメカニズムの解析に応用できると考えられるようになってきていた。
今回の研究では開発される新たに3次元津波シミュレーション技術は、具体的には、津波による市街地浸水および河川遡上のシミュレーションと、津波による鉄筋コンクリートビルの被災メカニズムの解明を行うもので、富士通では、同研究によって得られる技術をコンピュータ処理に応用していくとともに、各種メカニズムの解明によって、防災・減災に貢献することを目指すとしている。