恒星質量ブラックホール周辺の円盤から吹き出す風の速度が過去最速を記録したことが、NASAのチャンドラX線天文台のデータから明らかになった。この事実は、「近接するすべての物質を飲み込む」というブラックホールの特徴とは逆のことが起こっている可能性を示している。

今回の風速が観測されたブラックホール「IGR J17091-3624」において記録された風速は秒速約9,000km(光の速度の約3%)で、これまでの記録の約10倍に上る。この数字は、「IGR J17091」よりも数百万から数十万倍の質量の超大質量ブラックホールが発生する最速の風速と一致する。

超高速風を円盤から吹き出す恒星質量ブラックホール「IGR J17091-3624」

恒星質量ブラックホールは非常な大質量の星が崩壊した時に誕生するもので、通常、太陽の質量の5倍から10倍の質量がある。今回の風速が観測されたブラックホール「IGR J17091-3624」は質量が太陽の約3倍と、現在確認されているブラックホールの中で一番軽量のため、これほど強力な風が観測されるとは予想されていなかった。

想定外の発見はまだある。それは「ブラックホールを囲むガスの円盤から出る風がブラックホールがとらえる物質よりも大量の物質を取り払っている可能性がある」ことだ。

NASAによると、「ブラックホールが近接するすべての物質を飲み込むという一般的な考えとは逆に、IGR J17091を囲む円盤内の物質の最大95%が風によって吹き飛ばされていると計算している」という。

地球上のハリケーンと違い、IGR J17091から出る風はさまざまな方向に吹いている。こうしたパターンは、物質が集中して円盤に向かって流れていく、ジェットと呼ばれるビームとも区別される。

米国国立電波天文台の拡大超大型電波干渉計と同時に行われた観測では、この超高速風の発生時にブラックホールからの電波ジェットは存在していなかった。

今回の風速は2011年にチャンドラX線天文台が作成したスペクトラムから計算されたのだが、2ヵ月前に作成された鉄イオンのスペクトラムにはその証はなかったので、超高速風は発生したりしなかったりするようだ。

天文学者は、こうした高速風やジェットはブラックホールの円盤内の磁場によって発生するものと信じており、磁場の配置や物質がブラックホールに吸い込まれる速度が風やジェットの発生に影響を及ぼすのは間違いない。

IGR J17091は太陽に類似した星がブラックホールの周囲を周回する連星系で、天の川銀河の隆起部分に位置し、地球から約2万8,000光年の彼方にある。