大阪大学(阪大)の竹谷純一教授をリーダーとした研究グループは、溶液の塗布プロセスにより、世界最高クラスの性能を持つ有機TFTを用いた液晶ディスプレイの駆動に成功したことを発表した。同成果は阪大 竹谷純一教授、広島大学の瀧宮和男教授、大阪府立産業技術研究所の宇野真由美主任研究員、クリスタージュらによるものとなっている。
有機物半導体材料は、現在の半導体の主流であるシリコンなどの無機半導体材料と比ベて、簡便かつ比較的低温での作製が容易であり低コストとなりうること、より薄型にできること、またフレキシブルディスプレイなどのユニークな用途も期待できることから、次世代トランジスタなど基本エレクトロニクス素子ヘの応用開発研究が各所で進められている。しかし、実際に薄型ディスプレイ(FPD)を高速で制御する性能(移動度)と塗布法・印刷法といった簡便・低コストの成膜方法を両立することは困難で、この問題を解決するための技術開発が求められていた。
今回の研究では典型的な塗布型有機トランジスタの性能(0.1-1cm2/Vs)を1桁上回る10cm2/Vsのキャリア移動度を有する有機TFTアクティブマトリックスを開発、実際に液晶パネルの駆動(対角画面サイズ2.3型、画素数30×23)に成功した。この高い移動度の実現により、例えば、ディスプレイパネルに利用した場合、従来のa-Siを用いた場合より、1桁速い動画が表示可能となるという。
また、溶液から有機半導体膜を形成する際に、有機半導体分子が規則正しく配列した結晶構造を実現する新しい成膜プロセス「塗布結晶化法」を開発。同結晶化法は一度に高移動度の有機半導体をパターニングする方法で、溶液から有機半導体分子を析出する際に、配列しやすい分子設計を行った新規有機半導体材料「アルキルDNTT」を用いることで実現したという。
今後は、今回開発されたアクティブマトリックスパネルの高精細化と有機EL素子を組み合わせたディスプレイの開発を進めていくほか、有機材料開発からパネル部材、装置開発、デバイス開発を行う企業とのコンソーシアム「ハイエンド有機半導体研究開発・研修センター」を大阪大学内に組織し、高速の有機エレクトロニクスデバイスの実用化研究を進めていくとしている。