分子科学研究所(IMS)の江東林准教授らによる研究グループは、共役多孔性高分子の構築に蛍光性ユニットを用い、新規な蛍光性高分子を合成したことを発表した。同成果は米国化学会誌「Noteworthy Chemistry」に掲載された。

共役高分子は、π電子雲が分子鎖に広がっているため、特異な光・電子機能を発現することができ、機能性材料として様々な分野で広く応用されている。共役高分子は構成ユニットの構造をチューニングすることで、様々な波長で蛍光をつくり出すことができるが、共役高分子鎖は互いに強く相互作用し、溶液中においても容易に凝集し、励起エネルギーが失活してしまうため、どのようにして共役高分子鎖を一本一本隔離し、凝集することを抑制するかが高い蛍光発光能の発現につながるため、これまでに、この分子設計指針のもとで、高分子鎖を空間的に孤立化するための様々な手法が試みられてきた。しかし、これらのアプローチでは高分子鎖間における電子的なコミュニーケションが途絶えてしまい、特に鎖間を通じたキャリア移動ができなくなるため、デバイスへのさらなる展開が困難となっていた。

同研究グループはこれまで、高分子構造に多孔性を導入することで、新規な共役高分子の創製を行ってきており、すでに共役多孔性高分子を用いて、光捕集機能や蓄電機能、触媒機能などを見いだし、従来の共役高分子にはない特異な機能を開拓してきていた。

今回の共役多孔性高分子の構築に蛍光性ユニットを用い、新規な蛍光性高分子を合成するという成果だが、蛍光性分子のテトラフェニレンエテンを活用することで実現した。

テトラフェニレンエテン

同分子は周囲に位置するフェニレン基の回転運動により励起エネルギーがすぐに失活し、蛍光能が失われてしまうが、テトラフェニレンエテン誘導体をモノマーとして用い、Yamamoto反応により共役多孔性高分子を合成したところ、0.8nmのミクロン細孔を持ち、大きな表面積を有する多孔性高分子ができた。この重合時間を延ばしていったところ、高分子のサイズが大きくなると同時に、表面積も次第に大きくなるが、得られた高分子はいずれも同じ細孔サイズを有するため、基本骨格が保たれたまま3次元的に成長していることが判明したという。

テトラフェニレンエテンからなる多孔性共役高分子の基本骨格構造。左図中、青はフェニレン基、白は水素原子、黄色はエテンを示す

また、高分子の成長と共に、π共役が3次元骨格に広がっていくことも紫外可視吸収分光測定により明らかとなった。可視光を用いて高分子骨格を励起すると、いずれも黄色の蛍光を発することも判明したほか、興味深い点として、共役多孔性高分子は溶媒の種類に依存することなく、様々な溶媒中において強く発光することが確認された。

さらに、固体状態でも溶液と同様に、黄色蛍光を強く放つことができ、溶液と固体のいずれも蛍光発光量子収率は40%という高い値を示したほか、対照的に、多孔性を持たないリニア高分子では、溶液と固体状態のいずれにおいても殆ど蛍光を出さないことも確認された。

これらの結果を受けて研究グループでは、特異な蛍光発光能が多孔性高分子の構造に起因していることを明らかにした。多孔性高分子の骨格では、構成ユニットが隣のユニットと互いに連結し、自由に回転運動のできるユニットが少なくなるため、励起エネルギーを無駄にすることなく、効率的に蛍光発光に利用できる分子構造が形成され、その結果、溶液や固体などの状態を問わずに、強く発光することのできる高分子を構築することができたという。

なお、分子の一部分が自由に回転運動ができるようになると蛍光を発光する性質を失ってしまうテトラフェニレンエテンのような分子は他にも多数存在することから、今回の分子設計戦略は様々な高効率蛍光高分子の創製に新しい道を開くものとして期待できると研究グループではコメントしている。