2月7日に、国内における2足歩行ロボットバトル競技会の最高峰であるROBO-ONEの委員会が開催された。本来は非公開のものであるが、許可を得られたので、第20回大会に関する新情報、サーボモータの標準化、運営体制の変更について現在公開できる部分について紹介させていただく。
まず、3月24日(土)・25日(日)の開催が予定されている第20回ROBO-ONEだが、第19回大会やかわさきロボット競技会などでお馴染みの川崎市産業振興会館の1Fホールで行われる。
今回の委員会での大きな決定は、当初は未定だった軽量級・初心者向け部門の「ROBO-ONE Light」の開催が決定したこと。ROBO-ONE Lightは、委員会公認されているメーカー製の市販機(同じく委員会が公認したメーカーオフィシャルのオプションパーツでの改造は可能)か、1kg以下のオリジナル機体(ビルダーがレギュレーション内であれば自由に作ってよい)が参加できる部門だ。ROBO-ONE本戦の予選と共に、初日に開催される。
また、ROBO-ONEの本戦の予選は、第19回大会と同様に9m走となった。9mを一発勝負でコースアウトせずに完走したタイムで順位を決定し、ゴールできなかった場合は到達距離で順位が決められるという内容だ。第19回大会では、人の目では水平でもロボットのレベルからするとコースが微妙に水平でないため(レギュレーション上水平とはうたわれておらず、そこをどう切り抜けるかも課題の1つ)、ベテラン選手でもスタート直後にあっという間に転落(コースアウト)してしまうなど、かなりの選手が苦しんだが、はたして今回はどうなるだろうか。
そのほか、まだ正式決定していないが、ほかにもアイデアが出ており、さらに別の競技がエキジビションなどで加わる可能性もある。
それから、機体レギュレーションの変更はないが、バトル時のルールが1点、大きく変更される可能性がある(2月9日時点ではまだ審議中)。ここ最近のバトルでは、ロボットの手先や指先をかぎ爪状にして、相手の機体を引っ掛けて倒す(一応投げ技扱いとなる)スタイルが流行っているが、これらが一切禁止となる可能性がある。機体レギュレーションとしてはかぎ爪になっていても第20回大会に関しては反則は取られない方向になりそうだが、かぎ爪で引っ掛けて倒した場合はそのダウンが無効となる可能性が強い。
一方で、ハンドに把持能力を持たせてグリッパーにして、相手を掴んで倒す分には問題ない方向だ。なお、把持能力を持たせたとしても、結局は指先がかぎ爪など引っ掛けやすい構造になっていて、それを使うのは引っ掛けて倒すのと同じ扱いとなるようだ。「形だけグリッパーを採り入れておけばいい」という抜け道的な発想は認められなくなりそうなので、参加する選手は考慮した方がいいだろう。
続いては、「標準化」について。これは何の標準化かというと、現状、日本国内にはホビー用途の2足歩行ロボット向けに複数のメーカーが自社製サーボモータを出していたり、韓国ROBOTISの製品が輸入されていたりする。問題なのは、どれもこれも方式が異なっていて、統一されていないということだ。
よって、脚部はパワーがいるからA社の製品を使って、首はパワーがいらないから安価なB社の製品を使って、といったことができない。PCのように規格が統一されていないため、1社のサーボモータで構成するしかないし、またプロトコルなど使い勝手が異なるため、もし別のメーカーのものにスイッチするとしても、いろいろと技術的に勉強しないとならないというわけである。
こうした問題について、西村輝一代表らROBO-ONE委員会は開催から10年経つROBO-ONEの大きな問題と考えており、複数のメーカーに打診し、それぞれのメーカーで進捗度は異なるが、統一化に向けて作業が進められるというところにきたという状況だ。こちらはまだもう少し時間がかかりそうで、メーカー名などを出しての具体的な状況などは今回は掲載できないが、今後も委員会には参加できると思うので、折りを見てお伝えさせていただく。
それから、標準化に関わるものとして、今後、これまでのROBO-ONEのバトル競技会のエンターテイメント性を高めていくと同時に、そこから独立させた技術コンペティションの色合いが強い大会を増やしていくとしている。
これまでも、「ヒューマノイドヘルパープロジェクト」、通称HHPという大会が3回開催されており、ロボットが人を助けるというコンセプトの基に技術職の強い大会がROBO-ONEの競技会の1つとして行われてきたが、その系統の競技会が増えるというイメージだ。参加者が技術を磨く場とすることが狙いである。
仮称として「ROBO-ARM競技」としているが、共通規格の単腕または双腕のロボットアームを用いて、 MathWorksの数値計算ソフト「MATLAB」やテクノロードのロボット向け物理演算シミュレータ「Go Simulation!」を使用したシミュレーション部門(ROBO-ARM-s)、National Instrumentsのグラフィカル開発環境ソフト「LabVIEW」を用いたコントロール&モニタリング部門(ROBO-ARM-c)が考えられている。そして、それらと従来のHHPを統合した「ROBO-HHP」という総合部門があるという具合だ。
おおよそのスケジュールは発表されており、3月24日の第20回ROBO-ONE初日に正式な大会アナウンスが行われる。そして、ROBO-ARM-sが6月から8月の間、ROBO-ARM-cは9月15日から12月15日の間に実施。ROBO-HHPは、現段階では2013年の1月30日が検討されているが、まだ正式決定ではない。
なお、ハードを標準化することで、製作に関する敷居を下げ、理工系の学生やソフトウェア技術者などにもより参加してもらえるような構造が狙いである。
最後は、ROBO-ONEの新体制について。すでに公式Webサイトで発表されているが、2012年よりROBO-ONEの運営体制が変更となった。これは、先ほどのエンターテイメント部門と技術部門とを分ける方向と関わっているが、ROBO-ONE関連イベントや競技大会運営などのエンターテイメント部門をROBO-ONE ENTERTAINMENTが行い、ROBO-ONE委員会の運営をベストテクノロジーが行うというものだ。
ROBO-ONE ENTERTAINMENTとは、ロクスリーが運営しているエンターテイメントチャンネルで、ROBO-ONEのトップ選手を集めたプロ部門である「ROBO-ONE Grand Prix」を運営しているほか、最近ではロボットを題材にした映画「ブラックリスター」シリーズ、インターネットドラマ「ザンナ・ビアンガ」なども手がけている。
そして、ROBO-ONE ENTERTAINMENTの事務局として、インターネットTVの「みんなTV」を運営する東京国際テレビが参画する形で、当然ながらROBO-ONEの試合中継などは今後、みんなTVで行われるようになるというわけだ。そのほか放送日などは未定だが、ロボット関連のバラエティ番組なども企画されている。
それからROBO-ONE委員会のベストテクノロジーは、ロボットキット「FREEDOM」や、韓国ROBOTIS製のサーボモータ「Dynamixel」などを扱っているメーカーで、ROBO-ONEを初期から支えている企業だ。
このように、従来のROBO-ONEはエンターテイメント性(決してバトルの内容がプロレス的にバトルにシナリオを導入したり、オペレータやロボットに演技をさせる、という方向ではなく、イベントの作り方・見せ方としてもっとエンターテイメント色を強めていくという意味)を高め、一方でROBO-ARMなどの別部門で将来の技術者を育てたり、ソフトウェアなどの異分野からの参加ができたりするようにしていくことになる。今年で10周年のROBO-ONE、次の10年が動き出しているのだ。