宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月8日、すでに運用を停止している(2011年11月24日17時23分に運用終了)赤外線天文衛星「あかり」の残された観測データの解析を進めた結果、超新星残骸「カシオペア座A」に多量の一酸化炭素のガスが存在することを発見したことを発表した。研究は、米SETI研究所およびNASAエイムズ研究センターのJeonghee Rho博士、NASAエイムズ研究センターのWilliam Reach博士、東京大学の尾中敬教授、カナダのWestern Ontario大学のJan Cami博士らの共同研究グループにより行われ、天文誌「Astrophysical Journal Letters」に2月8日付けで掲載された。

カシオペア座Aは、秋から冬にかけて夜空にWを描くことで有名なカシオペア座にあり、天の川銀河で最も新しい(約330年前)に起きた超新星爆発の残骸だと考えられている。地球からの距離は約1万1000光年で、これまでの観測により3000万度という非常に温度の高いガスに満たされていることがX線観測で確認されていた。

NASAが2003年に打ち上げた赤外線天文衛星「スピッツァー宇宙望遠鏡」によるカシオペア座A超新星残骸の画像の中で、波長4.5μmで予想外に明るく輝く場所が見つかっていたことから、共同研究グループはこれが一酸化炭素分子によるものではないかと推測。そして「あかり」を活用してこの場所を観測し、赤外線スペクトルを得ることに成功した(画像1)。解析した結果、スペクトルには、一酸化炭素の特徴を示す2つの山がはっきりと現れており、この場所に大量の一酸化炭素ガスがあることが判明したのである。

画像1。右上の画像は、スピッツァー宇宙望遠鏡(赤:21μm、緑:4.5μm)、チャンドラ衛星(青:X線)の観測データからの合成した、超新星残骸カシオペア座Aの画像。赤は主にダスト、青は高温ガスの分布を示す。そして緑色が、一酸化炭素分子の存在を示唆している。左下は、画像の一部分(丸で囲んだ位置)を「あかり」が観測して得たグラフ。一酸化炭素の存在を示す特徴的なスペクトルが得られた。白で示したのが観測されたスペクトル、水色はモデル計算によって予測されたスペクトルで、両者は良く一致している。(イメージ:(c) J. Rho/NASA/JPL-Caltech/CXC、スペクトル:(c) J. Rho/JAXA/SETI institute)

一酸化炭素は炭素と酸素からなる、宇宙には普遍的に存在する分子だ。ただし、超新星残骸のような高温のガス中では同分子は簡単に壊れてしまうため、今回のカシオペア座Aでの検出は、想定外の発見だという。この一酸化炭素分子が、超新星爆発の時にできてそのまま生き残っているのか、それとも最近作られたものなのかはまだ判明していないが、若い超新星残骸に一酸化炭素がどうして存在していられるのか、大きな新しい謎ができたというわけだ。

今回の発見は、宇宙空間における物質の進化の研究に対しても大きなインパクトを与えるという。炭素と酸素は、水素やヘリウムに次いで、宇宙に多量に存在する元素で、宇宙空間に浮遊する固体の微粒子(塵)の主成分として知られている。

超新星残骸に含まれる炭素原子と酸素原子の多くが一酸化炭素になっているとすると、ほかの化合物ができにくくなってしまう。つまり一酸化炭素が多量に存在すると、固体の微粒子も作られにくくなるというわけだ。

そして固体の微粒子は、光を熱に変えて星間ガスを温めたり、逆に赤外線を放って冷やしたりするなど、宇宙空間の熱環境を支配する主要素である。また新しい分子の生成など、星間空間の化学過程にも影響を与える存在だ。つまり、宇宙が今の姿になるための物質進化に、固体微粒子は欠かせない重要な役割を果たしているのである。

超新星爆発は宇宙の初期における固体の微粒子の主要な供給源で、その後の宇宙の進化を決める重要な現象と考えられていたが、今回の一酸化炭素分子の検出はこの仮説に大きな疑問を投げかける結果となった。