科学ってどうして難しいんだろうと、疑問に思ったことがある人はきっと多いはずだ。例え科学が大好きで「面白い」と感じている人であっても、決して「簡単なもの」と思っている人は多くはないだろう。
なぜそう感じてしまうのかというと、いろいろと専門的なことを覚える必要が多かったり、頭の中だけで考えないとならない具体的でない話も多かったりして、記憶力や想像力が追いつかないといったところではないだろうか。
もちろん、学生時代の詰め込み教育の影響で理科系の教科に対してはあまりいい思い出がない、ちょっとトラウマ気味、なんて人もいることだろう。とにかく、そうした理由で「難しい」とされて、面白いはずの科学が「頭のいい人が興味を持つもの」みたいに敬遠されてしまっているのである(私なんかが携わっていられるので、決してそんなに賢い頭脳は必要なしで楽しめるのだが)。
しかし、本書「感じる科学」(著者はさくら剛氏)は、科学が「面白い」ものであり、「難しく感じてしまっていること」はまったく別だと気がつかせてくれる。決して科学がつまらないものではなく(それどころかエンターテイメントだと思える)、学校の授業や教科書を含めた、科学を伝えるため方法に問題があるとわからせてくれるのだ。
その問題とは、やはり「科学を解説するには真面目で硬くないとダメ」という雰囲気だろう。そのせいで、教科書はいうまでもないが、入門書や科学系の記事も硬いものが多い。マイナビニュースの科学系の記事を多々書いている自分で言うのもなんだが、硬い(笑)。もっと軽くて柔らかくて、大笑いできなくてもせめてニヤっとできるような例え話がせめて1記事に1つぐらい詰まっていれば、もっと多くの人が楽しみながら読んでくれるのではないかと思ったりと苦闘しながら書いている。
言い訳になってしまうが、これがまたなかなか難しいのだ。漢字を極力カタカナにして語尾を変えるといったレベルのことはすぐできても、効果はたかが知れている。もちろん、それでも心なしか軽くなった感じはしないでもないのだが、まだまだ全然パワー不足だ。
しかし、その軽くて柔らかくて面白おかしい雰囲気を、数々のバカバカしいネタ(オッサンネタを多量に含む)を交えて実現してしまったのが、本書なのだ。著者が自らが「史上最もバカバカしい科学の本」と称しているのだが、本当にその通りだと思う(笑)ほど、科学系の書籍としてあり得ない文体と内容となっている。
例えば、チャプター1の「光」のその1「光の性質」の冒頭部分を例に取っただけで、すぐにわかるはずだ。ここでは、まずどうしてものが見えるのかという話をするのだが、アイドルグループとそれを熱心にコンサート会場で応援するファンであるあなた、という設定で解説していたりする。照明から発射された光子が、アイドルの少女のしっとりとしたナマ首筋に反射して、あなたの目に飛び込んでくるというわけだ。しかも「あなたの体と一体化」と必要のないところをムダに太字で協調していたりする丁寧さ。
そして、言ってはなんだが、この寒い例え話で読者を油断!? させておいて、光が時速10億km(秒速30万km)で移動するとか、「物体を見るということは、その物体に反射した光を見ている」ということなどをさりげなく解説するのである。「難しいことが解説されていることに気がつかない」内になんとなく読んでしまえるのだ。「あれ? これってこういうことだったの??」と、きっと読んでから不思議に思うはずである。
そのほかにも、光子を「みつこ」と読ませて「森光子さんが飛んでくるわけではない」とか、著者は自分の寒いオヤジギャグのセンスを披露したいのか、科学の楽しさを伝えたいのか、どっちなんだかわからない気がしないでもないが、結果として難しい題材の核心部分をゆる~く、でも見事に解説しているというわけで、科学アレルギーを起こしてしまう心配がないというわけだ。
正直、スベっている部分も多いと思わないでもないのだが、同じ科学分野系の物書きとして、このノリを全編にわたって書き通していることには拍手を送りたい。自分にこんなバカバカしいテイストで書けるかといったら、はなはだ疑問である。正直なところ、「頭がいい人が読むのだから硬い雰囲気にして頭がよさそうな文章にしないと読んでもらえない」という意識が働いてしまいがちで、ついつい難しく書いてしまう。難しく書くのは意外と簡単なのだ。でも、誰もがバカバカしいと思えるようなネタを使ってゆる~く解説するというのはとても難しい。敷居がとても高いと思われている科学を、非常に低くしたスゴイ本なのである。
さらに、そうした敷居の低さに加えて、本書は難しい理屈はまず置いといて、科学の一番楽しいところである「こんな不思議な現象がある」「こんな風に考えられている」といったキモの部分をまず披露しているところも素晴らしい点の1つだ。科学の主立った分野の核心と大枠がすぐにわかるのである。
取り上げている題材はその構成もよく練られていて、前述したように「光」に始まって「特殊相対性理論」、「万有引力」、「一般相対性理論」、「量子論」、「タイムマシン」、「発明」、「宇宙」、「進化論」という具合だ。前項と若干題材が離れている場合もあるが、基本的に関連する形で、順を追って読んでいくことで積み重ねていけるようになっているのである。
それにしても、こんな感じで相対性理論や量子論まで解説しているわけで、ここまでバカバカしい例え話で解説した人はいないんじゃないかと思う。女性のスカートの中を重力レンズ効果を利用してのぞく、なんて例え話も出てくるわけで、まぁ、強い重力で光が曲がるという知識があれば、男なら誰でも考えるネタだが、これまで入門書でこんなことを書いた人がいるかどうかである。
ともかく、「○○入門」を読もうとしたけどが挫折してしまったという人、もしくは難しそうとプレッシャーを感じていて手が出せないという人でも、手軽に読める1冊が本書だ。著者が本書のことを『「○○入門」を読むための入門書』と称しているのだが、まさにその通りの1冊であった。2011年は随分と科学系のビッグニュースが飛び出してきて、2012年も結構な話題が1月から出てきたりしているので、ぜひ本書で基本をまず押さえ、それからもっと科学の世界に飛び込んでいってはいかがだろうか。
「感じる科学」
発行:サンクチュアリ出版
発売:2011年12月10日
著者:さくら剛
単行本:四六版/304ページ
定価:1,365円
出版社から:爆笑旅エッセイで人気のさくら剛さんの最新刊、なんと今度のテーマは『科学』です!
これまでの『爆笑ツッコミ型』とは全く違う新しいスタイルで、『相対性理論』や『宇宙』や『光』などの難しいテーマをすっごくわかりやすく面白く解説してくれてて、「そうか!そういうことだったのか!」と納得できます。
昔学校の授業でよく話がそれちゃう先生っていましたよね。そういう先生の授業って大抵人気がありました。この本もそんな感じで、『相対性理論』の話をしてるのに、なぜか亀田兄弟が出てきたり、マツコデラックスが出てきたり、そういう面白いたとえ話がいっぱい入っていて、笑いながら知識が手に入ります。こんな先生がいたら、もっと科学が好きになってたかもな、と思います。これまでになかったまったく新しい科学の教科書です。