大阪大学(阪大)と高輝度光科学研究センターは、70万気圧、摂氏1600度を超える高圧高温下において「酸化第一鉄(FeO)」が構造変化を伴わない「絶縁体-金属転移」(電気が流れにくい絶縁体から金属へと物質が変化すること)を起こすこと、また、その金属転移が従来提唱されていたものとは異なる新たなメカニズムによるものであることを発見したと共同で発表した。大阪大学極限量子科学研究センターの清水克哉教授と、高輝度光科学研究センター、カーネギー研究所、東京工業大学、海洋開発研究機構、ラトガース大学らの共同研究グループによる発見で、成果は米物理学会の「Physical Review Letters」誌に1月12日に掲載された。
FeOは地球内部を構成する成分の1つであるため、高圧力高温環境の地球深部におけるFeOの結晶構造といった物性は、地球内部のダイナミクスに大きな影響を与えていると考えられてきた。FeOは常圧常温下で岩塩型構造を持つ遷移金属酸化物であり、バンド理論では金属的であると予想されるにも関わらず実際は絶縁体という、いわゆる「Mott絶縁体」で、その物理を解明することは固体物性物理の分野の大きなテーマの1つとなっている。
そのため、高圧実験によるFeOの構造決定や物性測定がこれまでも数多くなされており、約25年前にFeOの圧力温度誘起金属転移が初めて報告されたが、その金属転移が起こる圧力温度条件や金属化のメカニズムは未だによく分かっていなかった次第だ。
今回の実験は、大型放射光施設「SPring-8」の高圧構造物性ビームライン「BL10XU」において、「レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル(DAC)高圧発生装置」を用い(画像1)、FeOの電気伝導度と結晶構造の同時決定を141万気圧、摂氏2200℃までの高圧力高温条件下で行った。
その結果からFeOの絶縁体-金属転移境界を決定した(画像2)。なお、この金属転移に伴うFeOの岩塩型構造からの結晶構造の変化は観察されておらず、このことは本研究で観察された金属転移が構造相転移によって起こるものではないことを示しているという。
画像2。高圧高温下におけるFeOの状態図。黒い太線と点線が本研究により決定された絶縁体-金属転移境界(灰色の帯は温度圧力の不確かさを示す)。シンボルが実験を行った温度圧力条件。B1、岩塩型構造:rB1、歪んだ岩塩型構造:B8、ヒ化ニッケル型構造 |
そこで高圧実験と同じく、高圧高温条件でのFeOの電子状態と電気伝導度を理論計算によって決定。その結果、実験で見られた絶縁体-金属転移は圧力温度変化によって起こるFeO中の鉄原子の電子スピン状態の変化が原因であることが判明した(画像3)。この絶縁体-金属転移機構はMott絶縁体において従来知られていたものとは異なる、新しいタイプの機構だったという。
今回の研究により、FeOは高圧高温下において、結晶構造変化を伴わない絶縁体-金属転移を起こすことが明らかになった。このことは地球マントル深部や外核に存在するFeOは岩塩型構造の金属相であることを示しており、金属FeOは地球のマントル-核の電磁気的な相互作用を強め、地球の自転に大きな影響を与えていると考えられ、地球の自転の仕組み解明への手掛かりとなるものだと研究グループでは説明しているほか、固体物性物理の分野においても新たな絶縁体-金属転移機構の発見は、物質の中でも電子どうしの間に働く有効な電磁気的な相互作用が強い状態(強相関電子系)への理解をさらにに深めることも期待されるとしている。