情報通信研究機構(NICT)は1月5日、タムラ製作所および光波と共同で、新しいワイドギャップ半導体材料である酸化ガリウム(Ga2O3)単結晶基板を用いた電界効果型トランジスタ(FET)を開発し、その動作実証に成功したと発表した。

Ga2O3は、シリコンカーバイド(SiC)、窒化ガリウム(GaN)といった既存のワイドギャップ半導体と比較して、さらに大きなそのバンドギャップに代表される物性を有しており、パワーデバイスに応用した場合、より一層の高耐圧・低損失化などの優れたデバイス特性が期待できる。また、Ga2O3は、SiC、GaNといった既存のワイドギャップ半導体では不可能な融液成長法による単結晶基板の作製が可能であることから、製造に必要なエネルギーやコストの削減が見込まれている。しかし、これらの高い材料的ポテンシャルにもかかわらず、これまで研究開発はほとんど手付かずの状態だった。

今回の開発では、新たに開発した「酸化ガリウム単結晶基板作製、薄膜結晶成長、デバイスプロセス技術」を駆使して、電界効果トランジスタの一種(MESFET)を作製し、その動作実証に成功した。

開発の最大のポイントは、融液成長法の1つであるフローティングゾーン法で作製した単結晶酸化ガリウム基板上に、分子線エピタキシー法によって成長した高品質n型酸化ガリウム薄膜をトランジスタのチャネルとして用いたことである。デバイス特性は、研究開発初期段階のため非常にシンプルなトランジスタ構造であるにもかかわらず、(1)高いオフ状態耐圧(250V以上)、(2)非常に小さいリーク電流(数μA/mm程度)、(3)高い電流オン/オフ比(約10,000)が得られるなど優れている。

今回作製されたGa2O3MESFETの断面模式図(a)と顕微鏡写真(b)

Ga2O3のこれらのデバイス特性は、実際のパワーデバイス機器に応用した場合、そのスイッチング動作時の大幅な損失低減を実現する。今回、新ワイドギャップ半導体材料であるGa2O3を用いたトランジスタの開発に成功したことによって、次世代高性能パワーデバイス実現への可能性が開けたという。

Ga2O3MESFETの(a)電流、電圧特性と、(b)トランスファー特性(ドレイン電圧40V)

NICTでは今回開発したトランジスタに代表される「酸化ガリウムパワーデバイス」について、近い将来、送配電、鉄道といった高耐圧から、電気、ハイブリッド自動車応用などの中耐圧、さらにはエアコン、冷蔵庫といった家電機器などで用いられる低耐圧分野も含めた幅広い領域での応用を見込んでいる。

なお、今回の研究成果は、米国物理学会誌「Applied Physics Letters」(オンライン版)に掲載された。