竹田設計工業が、12月5日~11日の1週間にわたり、中部国際空港セントレアにおいて「ツアーガイドロボット」の実証実験を実施した(画像1・2)。
ツアーガイドロボットは、高さ90cm、重量約30kg前後の倒立振子型のロボットだ。遠隔操縦で移動し、博物館や科学館などで来場者に展示物を紹介するのを目的として開発している。
今回の実証実験では、ツアーガイドロボットと要素技術開発研究用のロボット(「ずんどうロボット」と呼ばれている)2台を、クリスマスムードで賑わう中部国際空港「セントレア」の4Fイベントプラザで披露し、子どもたちと触れ合う中で、安全性の確認が行われた(画像3)。
また、ずんどうロボットによる現在開発中のマーカーを認識し、展示物をロボットが音声で解説するデモンストレーションも併せて実施したという次第だ。
ツアーガイドロボットは、子どもたちが間近で触れ合うことを前提としているため、ユーザーに危険が及ばないような本質安全設計を採っている。具体的には、電源が入っていない状態や可動中のセンサ異常などのトラブル発生時にも、倒れずに姿勢を保つような設計がなされた。これは、重心を車軸より低くすることで、実現している。
これにより、子どもが押したり抱きついたりしても、ロボットは常に起き上がりこぼしのように姿勢を元に戻すことが可能となったというわけだ(画像4・5)。
画像4。オープンな場で、ロボットが子どもの傍らで動作しても、危険が及ばないように配慮されている。抱きつかれて蹴られても、倒れなかった |
画像5。写真では分からないが、電源が入っていない状態のずんどうロボット。一般的な倒立振子型ロボットは、電源を切ると倒れてしまう |
ツアーガイドロボット開発プロジェクトは、平成20年にスタート。当時、岐阜工業高等専門学校に在任していた奥川雅之氏(現在は、愛知工業大学工学部 機械学科 准教授)が発案し、各務原市連携事業として「ツアーガイドロボット開発推進委員会」が立ち上がった具合だ。同プロジェクトでは、岐阜県内を中心としロボットの研究者や関連企業が連携し、ロボットの安全性や信頼性を重視し、公共サービス提供を目的としたロボットの実用化を検討してきた。
一方で愛知県名古屋市に本社を置く竹田設計工業が、数年前より、ロボット事業参入を視野に入れて、研究開発をスタート。そして、2009年度に竹田設計工業がツアーガイドロボット開発プロジェクトに参加した。経済産業省中小企業庁の「ものづくり中小企業製品開発等支援補助金(試作開発等支援事業)」に採択され、外部資金を得てプロジェクトが活発化した(画像6)。
なお、2009年9月と2011年10月に、岐阜県各務原市のかがみはら航空宇宙科学博物館でツアーガイドロボットの実証実験を行っている。
ツアーガイドロボットは両輪で駆動し、左右に回転する顔、胸元にあるカメラの4カ所が可動する。電源は鉛蓄電池を使用し、充電2時間で1時間半の連続可動が可能だ。今回の実証実験に向けて、バッテリや重りの配置を検討し、メンテナンス性の向上と重量バランスを改善したという。
ロボットには、サンリツオートメイションの遠隔操作IPシステムのプラットフォーム「TPIPボード(ティーピップボード)」を搭載。TPIPボードは、無線LAN (IEEE802.11a/g)に対応し、低遅延リアルタイム動画転送の特徴を持つ(画像7)。
オペレータは、ロボットから転送されてきた画像を見ながら操縦するが、人は0.1秒の遅延でも違和を感じる。TPIPボードは、伝送遅延分の予測画像を算出して加工し、遅延が生じていない画像を補整して、リアルな操作を可能にしている。こうした応答性の高いシステムを搭載することで、より安全な操縦をオペレータが行えるというわけだ(画像8)。
ロボットのデザインは、中川志信准教授(大阪芸術大学プロダクトデザイン)に指導のもと、学生が行った。デザインは人との親和性を重視し、子どもに威圧感を与えないようなサイズとデザインを取り入れたという。
また、デザインに岐阜らしさを取り入れたいとして、木目調の外装を採用。現在は、黄色く塗装されている顔も、岐阜提灯をイメージしたデザインに変更し、LEDで中から光を灯しロボットの状態をユーザーに伝えるようにしていきたいとしている(画像9~11)。
ロボットのコンセプトは、単にかわいいだけでなく、子どもたちが「うわぁ! ロボットが何でも教えてくれる。頭いい!」という感動を与えることだという。今は、「かわいい」が優先されているため、「親しみやすく賢い、子どもたちが憧れるようなロボットに育てていきたい」という。ロボットらしい賢さをいかに演出するか、そのキャラクタ作りも、今後の課題だと奥川氏は語った。
外装はFRP製で、塗装は自動車にも使われている耐久性の高い塗料を採用し、子どもたちが多少乱暴に扱ってもはげないようにしたそうだ。
そしてプロジェクトの状況だが、現在は要素技術開発研究用のずんどう型ロボットで、ユーザーに展示物を解説する機能の搭載を進めている。
今回は、オペレータの操縦で展示物間を移動し、ロボットが3×3マスのマーカーを認識すると、自律モードに切り替わり、ユーザーの方を振り向いて、自動音声で展示物の解説をするデモンストレーションが披露された。
マーカー認識を採用した理由は、展示物への加工が不要なことと、どこの施設であろうともイベントに応じて使用可能な汎用性の高いシステムにすることを目指しているからだ(画像12・13)。
画像12。展示物の近くまでは、オペレータが操縦する。マーカーで展示物までの距離を計測し、自律モードに切り替える。遠隔操作と自律を使い分けることで、確実な制御を行う |
画像13。マーカーを認識後、ロボットは方向転換をしツアー客の方を向いて、展示物の説明を始める |
なお、現在の課題は、ロボットの重心が低いため傾斜路や段差では倒れてしまう点だという。今後、傾斜に合わせておもりを前後に移動させることで、解消していくとした。
なお、同プロジェクトの狙いだが、汎用性の高い実用的なロボットシステムを開発し、ロボットを利用したビジネスモデルを創出することにある(画像14)。
この点について、奥川氏はロボットビジネスを家の建築に例えた。実際に家を建てるのは大工だが、設計は建築家が行う。施主であるユーザーの要望を建築家に伝えるために、インテリアデザイナーが存在する。ロボットサービスも、これと同様にロボットを製作するメーカーと、ツアーイベントを実施する科学館博物館の間に、コンテンツ提案やサービス提供のノウハウを持つコーディネーターが必要だという。
ロボットの製造組立を行うメーカーと、ロボットデザインやイベントの企画立案、販売を手がける企業が、自治体やNPOと連携しロボット開発サービス提供コミュニティを形成し、ロボット産業の活性化を目指すというわけだ(画像15)。「ロボットサービスのビジネスモデルを、岐阜愛知から生みだしたい」と奥川氏は今後の展望を語ってくれた(画像16)。