名古屋大学(名大)は12月21日、血糖値上昇作用を示すホルモンの1種「グルカゴン」が、アミノ酸やニコチンアミドの代謝の制御に重要な役割を果たしていることを明らかにしたと発表した。名大環境医学研究所の林良敬准教授らの研究グループによる発見で、成果は米糖尿病学会誌「Diabetes」2012年1月号に掲載。
患者数が日本において増加し続けている糖尿病とは、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が高くなり、その結果、動脈硬化が進むほか、網膜・腎臓・神経などが障害を受けてしまうという病気だ。
糖尿病の患者は、すい臓のランゲルハンス島(すい島)のβ細胞で作られ、血糖値を下げる働きを持つホルモンであるインスリンの産生あるいは効果が低下しているのが問題となる。
一方、血糖値の上昇作用を示すのがグルカゴンだ。こちらはすい島のα細胞で作られている。糖尿病では血糖値が高くなることが問題となるが、逆に血糖値が下がりすぎても生命に危険が及んでしまう。それにより、グルカゴンは生命の維持に必要不可欠であろうと考えられてきた。
一方で、糖尿病の患者ではグルカゴンが過剰に分泌されることが明らかとなっており、グルカゴンの作用を抑制する薬の開発が進められている。
また、血糖値を下げるホルモンがインスリンのみであるのに対して、血糖値を上昇させるホルモンはグルカゴン以外にも副腎皮質ホルモンなど複数が存在する。
これまでグルカゴンを完全に欠損する状態で、血糖値や代謝状態にどのような変化が起こるかはわかっていなかった。また、グルカゴンに他のホルモンでは代償できない特異的な作用があるのかも、わかっていなかったことから、今回の研究が進められた次第である。
そこで、研究グループはグルカゴンを欠損するマウスを作り出して解析を実施。すると、インスリンの分泌が抑えられ、血糖値が正常に保たれることが確認された。
グルカゴンは主に肝臓に働いてその作用を発揮するため、グルカゴンを欠損するマウスの肝臓における代謝を詳しく解析したところ、ブドウ糖の代謝に大きな異常は認められない一方で、アミノ酸をエネルギー源として利用する働きが低下していることが判明したのである。
肝臓の代謝異常を反映して、血中のアミノ酸濃度がおおむね2~4倍増加していることも併せて発見。糖尿病患者などにおいて血中のアミノ酸濃度は、あまり測定されることはないが、この成果から、糖尿病患者においてはその重症度や病態によりアミノ酸濃度が変動する可能性があり、今後は治療方針を検討する上でアミノ酸濃度を測定することが重要となる可能性があるといえる結論となった。
さらに、グルカゴンを欠損するマウスでは「ニコチンアミド」(以前は、「ビタミンB3」と呼ばれた、炭水化物やタンパク質からエネルギーを生みだす家庭で必要な成分の原料となる、「ナイアシン」の1種)を分解する働きが弱くなることも確認。
ニコチンアミドは寿命延長を促進する酵素「サーチュイン」の働きを弱めることから、グルカゴンがニコチンアミドの分解促進を介してサーチュイン活性化し、結果として寿命延長という生体に有利な作用を持つ可能性も浮かび上がった次第だ。
研究グループでは、今回の研究により、グルカゴンの働きを抑制する形で開発中の新しい糖尿病治療薬の効果と副作用を予測することにつながる成果を得られたとしている。
また、今後の糖尿病や代謝関連疾患、さらにカロリー制限による寿命延長効果に関連した研究において、グルカゴンの働きに注目する必要があると考えられるともコメントした。