2011年11月のTop500で、「京」は10.51PFlopsを達成し、前回のTop500に続き1位に輝いた。「京」は、富士通の45nm半導体プロセスで作られたSPARC64 VIIIfxプロセサを使い、同じく富士通の65nmプロセスを使うICCと呼ぶインタコネクトチップでプロセサ間を相互接続するシステムである。

2011年11月7日に富士通は、PRIMEHPC FX10と呼ぶスパコンを発表した。発表文では、FX10は、「京」に適用した技術をさらに向上させ、高性能、高拡張性、高信頼性をあわせもち、かつ省電力性に優れたスーパーコンピュータであると書かれている。

そして、SC11の富士通ブースでは、このFX10を前面に押し出した展示が行われていた。

PRIMEHPC FX10を前面に据えたSC11の富士通ブース

富士通ブースではFX10のシステムボードとSPARC64 IXfxのウェハを展示していた。このウェハは明らかにVIIIfxのものとはレイアウトが異なり、近づいてみると16個のコアが搭載されているのが見える。

SC11で展示されたSPARC64 IXfxのウェハ

しかし、システムボードは、プロセサに付けられた説明板にSPARC64 IXfxと書かれている以外は、昨年のSC10で展示されたものと見分けが付かない。

SC11で展示されたFX10のシステムボード(左)と昨年のSC10での「京」のシステムボードとウェハの展示(右)

しかし、SPARC64 IXfxプロセサは16コアとVIIIfxからコア数が倍増しており、クロック周波数は2GHzから1.848GHzと若干下がっているが、CPUチップのピーク演算性能はVIIIfxの128GFlopsから236.544GFlopsに増加している。そして、メモリはDDR3-1033からDDR3-1333サポートに改良されたと考えられ、メモリ帯域は64GB/sから85GB/sに増加している。しかし、演算能力の増加が大きいので、メモリ帯域/演算性能であるB/F比は、VIIIfxの0.5からIXfxでは0.359に低下し、演算ヘビーなプロセサになっている。

また、次の写真に示す筐体も、上下に各12枚の水冷のシステムボードが搭載され、その間に電源と6台のI/Oノードが配置されており、「京」と全く同じに見える。

PRIMEHPC FX10の筐体の裏側

「京」システムでは理論的な最大構成は発表されていないが、FX10の場合は、最大構成では、1024筐体を接続することができ、最大規模のシステムのピーク演算性能は23PFlopsと「京」の2倍強の演算性能のシステムまで拡張できる。この最大システムではメモリ容量は6PB、消費電力は23MWとなる。

そして、FX10での筐体の改良点は、オプションであるが、水冷のバックドアが付いたことである。

FX10の水冷バックドア

システムボード上のプロセサチップとICC(インタコネクトコントローラ)チップは水冷であるが、メモリDIMMは空冷である。そして、電源やシステムディスク、I/Oノード内のPCIeカードも空冷になっている。このため、「京」の場合はコールドアイルの床下から冷気を供給して冷却し、DIMMや電源などを冷却して暖まった空気はホットアイルから天井に上がり、計算機室の端から吸い込まれて空調機で冷却して床下に戻すという循環を行っている。

しかし、この方法は大量の空気を循環させるということで効率も悪いし、数筐体程度の小規模システムではコールドアイルとホットアイルの分離もやり難いという問題がある。これに対して、水冷バックドアでDIMMや電源などの発熱を発生源の近くで吸収すれば、計算機室に熱を拡散させてから冷やすより効率が良いというメリットがある。また、計算機室の空調にも負荷が掛らない。