12月14日、15日の2日間、東京都港区のザ・プリンス パークタワー東京にてSalesforce.com主催の技術カンファレンス「Cloudforce 2011 Japan」が開催された。基調講演には米Salesforce.com 会長 兼 CEOのMark Benioff氏が登壇。ソーシャル時代における業務アプリケーションの姿について歴史や事例を交えながら解説した。
基調講演に登壇した米Salesforce.com 会長 兼 CEOのMark Benioff氏 |
Benioff氏は講演の前半、Facebookを中心とするソーシャルメディアを媒介して起きた"アラブの春"や"ウォール街占拠"などを振り返り、これらの活動に明確な指導者がいたわけではないことを説明。「ソーシャルメディアというテクノロジーがあったからこそ成しえたもの」とコメントしたうえで、一連の変革を「ソーシャル革命」と呼んだ。
さらに、1970年代から活躍するミュージシャンNeil Young氏を招き、デモ活動が活発だった1970年代との状況を比較。Young氏は、「人と人とが話し、共感が生まれた後、行動が起こる」と説明した後、昔はラジオでメッセージ性の強い音楽などが流れ、それを聞いた学生らが互いに話し合い、デモへとつながっていったのに対し、現在はソーシャルメディアによってWeb上で対話が生まれ、瞬時に拡散していく状況にあると分析。これを受けてBenioff氏は「テクノロジーによって大きな変革がもたらされている」とコメントし、ソーシャルメディアという技術に備わるパワーの大きさを強調した。
基調講演で1970年代のデモ活動について語ったミュージシャンNeil Young氏 |
ソーシャルエンタープライズ、3つのステップ
こうしたソーシャルメディアの強力なパワーを企業活動にも取り込んでいくべきだというのが、以前からのBenioff氏の訴求である。同社はこのコンセプトを「ソーシャルエンタープライズ」と呼び、具現化のために3つのステップを提唱している。
1つ目のステップは、顧客のソーシャルプロファイルを作ること。ソーシャルメディア上に投稿された顧客個人の情報を既存のCRMデータベースに取り込み、個人の趣味・嗜好や友人関係などを把握できるようにする。その情報を参考に顧客一人一人に合わせた対応を行うことで、顧客満足度を高めようという取り組みだ。
2つ目のステップは、社員のソーシャルネットワークを構築すること。社員同士がバイラルにつながり、それぞれの得意分野を把握しあえる環境を作ったうえで、問い合わせや回答を投稿できる機能も提供する。モバイルからも利用できるようにすれば、課題や疑問を投稿した際に適任者から迅速に回答やアドバイスが得られるようになる。また、提案が受注に至った際には情報をすぐに共有し、関係者で喜びをわかち合うことも可能だ。Salesforce.comの「Chatter」では、承認プロセスもタイムライン上に組み込めるなど、普段の業務プロセスを改善する機能も用意されている。加えて同社は、ビデオチャットや動画投稿機能なども提供しており、経営会議の様子を一般社員にも公開し、フィードバックを受け付けるといったことも簡単に行えるという。
そして、3つ目のステップとしては、ソーシャルメディア上の評判を分析することが挙げられている。ソーシャルメディアの利用が当たり前になった昨今では、製品やサービスに関する口コミ情報を分析し、改善につなげるだけでなく、不満を抱えるユーザーを発見したらその場で解決策を提示するといった対応も必要になる。Salesforce.comでは、今年3月にソーシャルメディアのモニタリング技術を提供する米Radian6を買収しており、その技術を同社CRM上に取り込めるほか、ビデオチャット機能使って、問題を抱える顧客との間で実際の状況を確認しながらコミュニケーションをとり、解決策を提示することもできるようになっている。
すでに高い効果を上げた企業も
Benioff氏は、こうしたソーシャルエンタープライズを実践している企業の事例として、鶴巻温泉にある老舗旅館の「陣屋」や航空会社の「KLM」、自動車大手の「トヨタ自動車」などを紹介。陣屋では、Sales CloudとFacebookを連携させて利用客の趣味・嗜好を細かく分析し、おもてなしの質を向上させたほか、仲居や調理人、浴場管理者らにスマートフォンなどから作業の完了を入力させるなどして業務連携しやすくしている。また、KLMではTwitterの情報をSales Cloudに取り込み、年中無休のカスタマーサービスを提供しているほか、トヨタ自動車では経営幹部1000人にChatterを利用させ、部門の壁を越えた情報共有環境を作り、意思決定の速度を上げているという。
講演ではそのほかにも、日本郵政やアシックス、Disney、Burberry、徳島大学、キヤノンマーケティングジャパンなどの事例も紹介された。いずれも業務効率向上やマーケティング効果増大などの成果が表れているという。
講演の最後にBenioff氏は、新たなライセンスとして、「ソーシャルエンタープライズライセンス契約」を用意していることも説明。全社員が全製品を制限なしで利用することが可能で、ユーザーから要望の多かった、利用開始前のコスト見積もりが高い精度でできることを明かした。