東京大学大学院生の小野宜昭氏(日本学術振興会特別研究員)と大内正己 准教授らを中心とした国際研究チームは、W.M.ケック天文台、すばる望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡およびスピッツァー宇宙望遠鏡で得られたデータに基づき、ビッグバンから7.5億年後の生まれて間もない宇宙に、きわめて活発に星を生み出す銀河「GN-108036」を発見したことを発表した。同成果は、米国の天文物理学専門誌「The Astrophysical Journal」の2012年1月10日号に掲載される予定。

GN-108036の擬似カラー画像。ハッブル宇宙望遠鏡のカメラ(ACS)でIおよびzバンドフィルタを用いて得られたデータを青色と緑色に、ハッブル宇宙望遠鏡のカメラ(WFC3)のF140Wフィルタのデータを赤色に割り当てている。GN-108036は非常に遠い宇宙にあるため、宇宙膨張の影響でとても赤い色をしている。((C):国立天文台/ハッブル宇宙望遠鏡)

研究チームはまず、「すばる・ディープ・フィールド」と「グッズ・ノース・フィールド」と呼ばれる天域を、すばる望遠鏡に搭載されたすばる主焦点カメラ「Suprime-Cam」で観測、天体の色を手がかりにして遠方銀河の候補を絞り込みを行った。そして2010年にそのうちの11天体をケック望遠鏡の分光器「DEIMOS」で観測。その結果、本物の遠方銀河であることの決め手となる非対称な形をした「ライマンα輝線」と呼ばれる光が、GN-108036を含む3天体で検出された。ただ、GN-108036からのライマンα輝線は既存の可視分光装置で最高性能であるDEIMOSにおいても観測が困難な1μmに迫る波長にあり、検出に疑いの余地があったが、2011年にケック望遠鏡で観測することができ、その観測で得られたデータでも同じように非対称な輝線が写っているのを確認できたことから、GN-108036が129億年以上前の黎明期の宇宙にある銀河であることが明らかとなった。

ケック望遠鏡の分光器「DEIMOS」を使って得られたGN-108036の分光スペクトル。赤矢印で示している998nm付近にライマンα輝線が検出された。この輝線は波長の長い方へ裾野を引く非対称な形をしており、疑いの余地なくライマンα輝線であることが分かる(赤線は観測された輝線の形によく合うモデル曲線)。なお、灰色の影の部分は地球大気からの強い夜光輝線が重なってしまっているため除かれている((C):国立天文台/ケック天文台)

また当時、GN-108036があるグッズ・ノース・フィールドは、ハッブル宇宙望遠鏡の新しい高感度カメラ「WFC3」で撮影されたばかりで、研究チームがそのデータを解析したところ、GN-108036が写っていることが確認され、その画像からGN-108036は紫外線で極めて明るく、生まれたばかりの星がたくさんあることが判明したという。さらに、興味深いことに、その大きさはおよそ5000光年で、天の川銀河の20分の1程度の大きさしかないことも判明した

研究チームはさらに、スピッツァー宇宙望遠鏡の赤外線カメラ「IRAC」と、すばる望遠鏡の近赤外線カメラ「MOIRCS」で得られたデータも組み合わせることで、GN-108036の星形成率を求めたところ、その結果、GN-108036は、同時代の銀河と比べて10倍以上の星が生まれていることが判明したという。これは、「毎年太陽1000個分のガスから星が生まれており、同時代の宇宙で見つかっているほかの銀河とは比べ物にならない数」だと研究チームでは説明しており、研究チームをリードしてきた大内准教授は、「ガスが重力で集まり始め、ようやく銀河で星が生まれるようになる宇宙の"夜明け"において、これほど活発な銀河が存在することに、私たちはとても驚いています」とコメントしている。

近年、ビッグバンから数十億年後の宇宙にきわめて重く年老いた銀河が見つかってきているが、それらがどのようにできたかはまだよくわかっていない。小さいながらも星形成が活発なGN-108036は、そうした銀河の祖先にあたるのかもしれず、さらに詳しく調査することで銀河の誕生から成長の謎に迫れる可能性があると、研究チームでは期待を示している。