NEC執行役員 兼 中央研究所長の江村克己氏 |
NECは12月14日、同社のR&D戦略説明会を実施、現在行っている研究開発の内容の説明などを行った。
同社の注力領域は、新たな価値を創出する「C&Cクラウド」における「クラウドサービス」「クラウド基盤」「クラウド端末・センサ」およびスマートエネルギーなどの新分野における「エネルギーマネジメント」や「蓄電池」などである。その中において、研究所の役割は「グループが発展するエンジンとして、将来事業を創出する革新的なイノベーションや現事業を大きく発展させる継続的なイノベーションを生み出すこと」であると同社執行役員 兼 中央研究所長の江村克己氏は説明しており、「シンバイオシス」「ディペンダブル」「エコロジー」の3つのテクノロジーに向けて、「ビジョンと顧客価からテーマを設定」「グローバル視点とスピード感を持った活動」「ダントツで骨太な研究成果の創出」の3つの方針をもとにした技術開発が行われているとする。
「クラウドと一言で言っても、従来システムをクラウド化するだけでは効率化の向上だけで、クラウド化により、業種や分野にまたがった情報をつなぎ、新しい価値を生み出すことが重要」と考えの下、そのための現状の把握から、データの収集、解析による新たな価値の創出、そしてそれを実世界へとフィードバックする一連の流れが求められるようになってくることを踏まえ、実世界からの情報収集技術としての量子ドットセンサや直観的インタフェースの開発、そしてそれを集積し解析するためのビッグデータ処理に向けた技術、大規模なシステムやリアルなシステムを監視するためのインバリアンツ解析技術の開発を進めているという。「もう1つ、ICTをほかの領域へと適用していくという取り組みも進めており、例えばトレーサビリティや高齢者への支援、株価のデータ分析などの新事業の創出に向けた取り組みも平行して進めている」とICTの利活用で得られるデータをどうやって生かしていくかの模索も行っていることを強調する。
また、「必要となるデータを実世界から得ようと思うほど、その情報をコンピュータに送る際のネットワークの太さがボトルネックになってくる。そうなると、機器単体などの設計ではなく、システムの全体設計が重要となってくるが、そこが我々の強みを出せる部分」ともしており、そうしたバックエンドからフロントエンドまで幅広く精通することで、トータル的に高い性能でネットワークを活用できるソリューションとして提供することで、それぞれのユーザに見合った価値をリアルタイムで創出、提供していくことが今後の方向性になるとした。
一方のスマートエネルギー分野に関しても、再生可能エネルギーの導入が増えていくことが想定され、蓄電池の重要性が増していく。すでに同社は電気自動車向けの蓄電池を手掛けているが、「これが将来に向かったときに、長寿命で大容量化していく。また、二輪車や家庭用などへと適用範囲が広がっていくほか、デジタルグリッドやローカルのマイクログリッドなどでの電池を活用することによる効率的なエネルギーマネジメントが考えられる」として、そうした新しい価値観の提案まで含めた取り組みを進めていくという。
さらに、センサによる実世界からのデータの取得の進化にも触れ、「センサそのものではなく、それをどう活用していくかがポイント。例えば巡回警備のために人が建物のあちこちを回っていくのではなく、センサをさまざまな場所に配置し、それぞれが独立して状況を感知するといったことが求められるようになってきている」と、センサのさらなる活用に向けた低価格化、高性能化に向けた研究を行っているとした。
NECが開発している高感度圧電式振動センサ。従来比20倍の高感度と10Hz~20kHzの帯域に対応しながら、価格は従来の1/10に抑えられるという。右の写真は脈拍測定用のデモツールで、先端にセンサが付いており、皮膚に触れるだけで脈の周期の細かい部分まで測定することができる |
こうしたセンサなどから実世界のデータが増えれば増えるほど、効率的な処理が求められる。そうしたニーズに対し、同社では「ビッグデータストリーム処理技術」の開発を進めており、すでに複合イベント処理として248万イベント/秒のストリーム処理技術を開発、これとさまざまな法則や知見などと組み合わせることで、従来以上に細かなサービスの提供などが可能になるとした。
ビッグデータストリーム処理技術の概要。デモでは、各自動車の位置情報をリアルタイムで取得、交通事故が起こった瞬間に、これまでの交通履歴などを加えて、事故ポイントに行く可能性が高い自動車のみに事故情報を伝えるといったものが示されていた |
その一方、これまで行ってきた研究内容を進化させたものなどもある。「顔認識技術」がそれで、以前は入国認証という一対一での認証を想定していたが、今回は新たに、学習型超解像技術と組み合わせることで監視カメラのような大勢の人がいる中で、ブラックリストに掲載されている人を検知するといった、多数の人が行き交う粗い画像の中から、特定の人物を認識することを可能とする技術を紹介したほか、「インバリアンツ解析(SIAT)」として、従来、情報通信システムの運用監視に利用してきた技術を化学プラントや発電所などの物理システムに適用する技術や、「OpenFlow」の活用によるネットワークリソースの効率的利用の提案、蓄電池技術、そして12月12日に会見も行われた「デジタルグリッド」などの紹介も行われた。
なお、同社としては今後の研究開発の方向性として、「R&D+M」として、研究者がカスタマと協業し、隠れたニーズの掘り起こし、把握を進めていくことに加え、「グローバルオープンイノベーション」として、欧米やアジアの大学との連携を加速させ、現在行っている海外の研究比率25%(研究所中心)から、将来低には50%へと海外での研究比率を増やし、グローバルなビジネスへの対応を進めていくとしている。