九州大学は、味覚に対する好き嫌いに応じて顔の皮膚血流が特異的な反応を示すことを明らかにしたと発表した。味の官能評価の新たな手法として期待されるという。発見は九州大学健康科学センター林直亨准教授と、九州大学人間環境学府大院生の鍛島秀明氏らによるもので、成果は米国時間12月1日に科学誌「PLoS ONE」に掲載された。
美味しいものを食べると幸福感がもたらされ、表情が変化するように、表情の変化は味の善し悪しや情動を反映する1つのシグナルと見なされている。しかし、表情は容易に偽ったり隠したりできるので、その変化から味覚を客観的に評価することが難しい。
そこで林准教授らは、味覚の客観的評価法として、顔の皮膚血流に着目。恥ずかしいと顔を赤らめたり、体調が悪いと顔面が蒼白になったりと、顔色の変化が観察され、また顔色にまつわる言語表現が数多く存在していることにヒントをえたという。さらに、皮膚血流の変化は自律神経活動を介した応答であり、被験者が意図的に変化を起こすことは極めて困難である点も重要だ。これらの特徴から、皮膚血流は味覚を客観的に評価できる可能性があるというわけである。
今回の研究では、甘味、酸味、塩味、うま味、苦味の5つの基本味に対して、顔面の皮膚血流が特異的に変化するという仮説を立て、検証が行われた。
皮膚血流の変化の計測は、味覚刺激中に顔の皮膚血流をレーザースペックル法によって計測。刺激前に対する刺激中の血流の相対変化量を算出した。与えられた味覚の好き嫌いを、11段階の主観的嗜好尺度法を用いて測定した。なお、レーザースペックル法とは、光の干渉の変化する速さが、測定対象表面にある物体の移動速度と関連することを用いた非接触の血流測定法である。
計測の結果、甘味、うま味の刺激時には、主観的嗜好尺度が高まるにつれて、要するに美味しいと感じるほど、まぶたの皮膚血流が上昇することが判明(画像1・aおよびb)。そして、苦味刺激の場合は、主観的嗜好尺度が低下するにつれて、要するにまずいと感じるほど、鼻の皮膚血流が低下した(画像1・c)。酸味と塩味に関しては、主観的嗜好度との関係を示さなかったが、ほおの皮膚血流を増加させることが示された。これらの結果から、顔の皮膚血流が味覚に対する好き嫌いに伴って特異的に変化することが確認された次第である。
画像1。甘味・うま味・苦味刺激に対する顔の皮膚血流イメージ(左)と、各味覚刺激に対する嗜好度と血流応答との関係(右)。甘味(a)、うま味(b)では、まぶたの皮膚血流が増加し、苦味(c)では鼻の皮膚血流が低下する。まぶたの皮膚血流(甘味、うま味)と鼻の皮膚血流(苦味)は、主観的嗜好度との間に有意な相関関係を示した(右) |
今回の発見により、食品開発の現場において、味覚の官能評価に適用できると考えられるという。また、臨床や介護の場面において、意思疎通の困難な、例えば重傷筋萎縮効果患者などの味覚を客観的に判定でき、個人の嗜好に合った食事を提供するといったことにも応用できるとした。
また、今後は、味覚センサとしての実用化を目指すため、基本味のみならず、複雑な味の評価に対して、今回の手法の判別精度について検討していくとしている。