理化学研究所(理研)の研究グループは、血球成分の個人差に関連する遺伝的背景の解明を目的とした国際共同プロジェクト「ヘムジェン コンソーシアム(HameGen consortium)」に参加し、血小板の数や大きさに関わる68個の遺伝子を発見したことを発表した。同コンソーシアムには、世界中に存在する36のゲノム研究施設が参加し、日本人集団を対象とした研究は、理研ゲノム医科学研究センター 統計解析研究チームの高橋篤チームリーダー、岡田随象客員研究員が担当して発見した成果である。この成果は、英国の科学雑誌「Nature」(オンライン版)にて公開された。

血小板は、赤血球、白血球とともに血液中の細胞成分の1つで、血管が損傷した時に集合して、その傷口をふさぐ役割を担っている(血小板凝集)のと同時に、血液を凝固させる成分を放出し、出血を止める役割も担っている(凝固)。

血小板の数や大きさといった測定値は、これら血小板凝集機能や凝固能を反映して増減するため、一般的な血液検査の項目として医療現場で広く測定されているほか、近年では、心筋梗塞や脳梗塞といった重篤な病態のリスク予測因子としても有用であることも明らかになってきている。しかし、その測定値には健常人でも個人差があることが指摘されており、正確な診断のためにもその原因解明が求められていた。

研究グループは、ヒトゲノム全体に分布する約250万個の一塩基多型(SNP)について、欧米人集団66,867人から得た血小板の測定値との関連を調べるため、大規模なゲノムワイド関連解析を実施したほか、統計学的に有意な関連を認めた遺伝子多型に関しては、日本人集団14,697人を含むアジア人集団22,922人から得た解析結果との照合を行った。

その結果、血小板の数や大きさに関連したSNPを持つ68個の遺伝子を同定し、そのうち15個が欧米人集団とアジア人集団とで共有されていることを発見した。血球成分の個人差に関する研究はこれまでにも行われてきたが、解析対象人数だけでなく、同定した遺伝子数でも、今回の研究は過去最大規模であったという。

血小板の測定値を対象としたゲノムワイド関連解析結果U各SNPと血小板の測定値との関連を調べるゲノムワイド関連解析の結果の一部を抜粋したもの)。横軸にヒトゲノム染色体上の位置、縦軸に各SNPのP値(偶然にそのような事が生じる確率)が示されており、グラフの上にあるほど関連が高いことを示す。関連を認めた遺伝子が図中に、血小板測定値との関連がすでに分かっている遺伝子を赤字と緑字で、その他の血球成分との関連がすでに分かっている遺伝子を青字で、今回新規に発見した遺伝子を黒字でそれぞれ示されている

また、同定した68個の遺伝子が作りだすタンパク質の相互作用ネットワーク(protein-protein network)を、既存の生物学的知識との照合を網羅的に実施するパスウェイ解析を用いて検討した結果、これらのタンパク質が互いに影響しあい、全体としてネットワークを形成していることを発見した。さらに、効率的な遺伝子機能のスクリーニングが可能なゼブラフィッシュやショウジョウバエを用いて、個々の遺伝子機能を消失させる実験を行ったところ、血小板が産生されなくなるなど実際に血球成分の形成に影響を与える15個の遺伝子が確認されたという。

血小板の数や大きさと関連した遺伝子間の相互作用ネットワーク。今回、同定した68個の遺伝子が作り出すタンパク質が、互いに影響を及ぼしあって相互作用ネットワークを形成することを発見した(ネットワーク上で主要な働きを示す遺伝子が図中に示されている)

近年、疾患に関する数多くの原因遺伝子が同定されるようになってきたが、遺伝子間の機能的な相互作用や、遺伝子の機能が生体に与える影響については、解析が追いついていないことも事実で、研究グループでは、今回同定した遺伝子を対象に研究が進むと、血小板の制御機構の解明が期待されるほか、血小板機能の個人差や、心筋梗塞や脳梗塞といった病気の発生リスクの正確な予測と解明など、個々人に合わせたオーダーメイド医療への応用が期待できると説明している。