情報通信研究機構(NICT)は11月30日、感情に関する情報が言葉の解釈に影響を与える仕組みについて、脳磁場計測装置(MEG)を用いて解析を行い、脳内で「言語情報」が処理される過程で、「感情情報」が脳の両半球の前頭部で結合されるというプロセスを明らかにしたと発表した。英文学術誌「Neuroscience Research」2012年1月号に掲載の予定。
"真に伝えたいことを伝える"情報通信技術を開発するため、人の脳の高次機能に関する研究開発を行っているのがNICTの研究内容の1つだ。会話はコミュニケーションの重要な基本的要素であり、音声には「言語情報」はもちろんだが、「感情情報」を載せることも可能である。
音声に載せる感情情報とは、例えば、子どもが明るい声で「ただいま」と帰ってきた時と、沈んだ声で「ただいま」と帰ってきた時とでは、同じ言語情報は「ただいま」であっても、感情情報が異なるので、聞き手はさまざまな背景を想像することができるというわけだ。
これは、明るい声・沈んだ声から、言葉に込められた感情を理解しようと、聞き手の言語処理の過程において、感情情報が統合されるからだと考えられている。このように、感情情報が言葉の理解に影響することは経験的に誰でも知っていることだが、脳科学の世界では言語処理と感情処理は別々の分野として研究されてきたため、これまでは両処理がどのように統合されるかがわかっていなかったという次第だ。
今回の研究では、外科的処置のいらない非侵襲脳機能計測装置の1つである脳磁場計測装置(MEG)を用いて、言葉の意味理解処理と感情情報の処理が統合するタイミングを正確に測定した。その結果、感情情報が言葉の解釈に影響を与える仕組み、すなわち言語情報と感情情報の統合に関する脳のメカニズムを提唱することができたのである。
今回の実験では、感情を込めて発せられた音声を聞いた後に、単語を黙読した場合の脳活動の時間経過を計測した。感情的な音声と無感情な音声を聞いた後とを比較すると、単語を黙読した約0.3秒後に右前頭部の脳活動に違いが現れた。
さらに、その約0.1秒後には、感情的な音声が嬉しい場合と悲しい場合とで、左前頭部の脳活動に違いが生じることも発見したのである。これらの結果により、言語処理の過程において感情的な情報は、脳の左右両半球の前頭部で結合されているという脳内プロセスを明らかにすることができたとした。
現在の技術では、まだ人がどのような感情情報として受け取ったのかという心の状態をとらえることは困難だが、今回の成果により、情報の受け取り方を脳活動から客観的に評価する技術へつながることが期待されている。
また研究グループは、今回の実験で言語理解の実験対象を感情にまで広げたことは、脳が情報を理解するプロセス全体の解明に向けた大きな一歩としており、言語理解の脳内プロセスを明らかにすることができれば、テキスト送受信などの限られたコミュニケーションにおいても不要な誤解や齟齬を防ぎ、相互理解を促すようなインタフェースを実現できるとしている。