マカオを代表する注目のエンターテインメントショー「The House of Dancing Water」(以下、THODW)。本ショーは、サーカス集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」を手掛けたこともあるフランコ・ドラゴーヌ氏の演出によるもので、嫉妬深い蛇の女王と、彼女にとらわれている美しい王女、そして王女を救おうとする若く勇ましい異国の勇者による、王位継承の物語だ。巨大な水槽を中心に据えた大掛かりな舞台装置を使い、総制作費は2億香港ドル(2億5,000万米ドル)を超えるという、世界最大級のウォータースペクタクルとなっている。

このショーの見どころは、壮大なストーリーやキャストによる演技もさることながら、ドラゴーヌ氏による独特な"色づかい"もその1つだといえるだろう。本レポートでは、照明、衣装、大道具、小道具の絶妙な調和から生まれる「色」に注目しながら、THODWの世界観をお伝えしたい。

「The House of Dancing Water」では、同氏による独特な"色づかい"も見どころの1つ

物語と連動する"色"の役割

上の写真は、劇中に登場する賢人・Wabo。彼は、とらわれた王女を取り戻すために戦う勇者の水先案内人だ。暗闇の中でたたずむWaboと黄金のキリンが、これから始まる戦いの前の静けさを表しているようである。

続いて、不思議な暴風雨により海岸に打ち上げられた勇者のシーン。彼の勇気を示す赤が、水面の深青やキリンの色とのコントラストにより美しく輝いて見える。

大スクリーンに映し出された映像が、これからの恐ろしい戦いを暗示する。映像技術を駆使した奥行きのある立体表現により、巨人がそこにいるかのようなリアリティーが観客を包む。

水面から現れた大きな船。この上でキャストは踊り、水しぶきを上げて水面へ飛び込む。国全体が女王によって支配されているという情勢を、観客へ視覚的に伝えている。

劇中に登場するライダー。照明に輝くバイクと漆黒の衣装を着たライダーが、アクロバティックなパフォーマンスを披露する。

純白の衣装を纏うのは、フェイ・リオン演じる王女。水面の緑や、背景に映し出される情景との対比により、王女はより美しく際立つ。

一度は王女を救出できたかと思いきや、勇者を最後の災難が襲う。背景に映し出されていた木々は炎上し、水面の色もそれに反応して赤く光る。そして場面は転換し、大きなブランコからキャストが飛び出すシーンへ。緑色に輝く水面がキャストの飛び込みに反応して激しく波打ち、泡立つ様はクライマックスへの盛り上がりを演出する。続いて、勇者がとらわれる場面では黒一色に。あえて鮮やかな色を使わないことで、他のシーンとのコントラストを強調している。

最終シーンでは、音楽に合わせ水面から静かに水が噴射される。背景に映し出された木々には花が咲き始め、国に平和が戻ってきたことを伝えていた。なお、幕切れでのキャスト紹介でも、純白の衣装に包まれた王女は際立っていた。

演出における、"色"の重要性

ショーでは、鮮やかな色から漆黒まで、シーンにあわせて様々な色が使い分けられていた。このような演出を手掛けたフランコ・ドラゴーヌ氏は、登場人物の感情を分かりやすく観客に伝えるコミュニケーションの1つとして、色の重要性を強調する。

ショーの演出について語る、フランコ・ドラゴーヌ氏

一方で、色に対する意識については、各国で異なることもある。そこで同氏は、中国やアジアにおいてそれぞれの色がどのように捉えられているかに気を配り、中国国内を旅して回ったという。また、古来より伝わる孔子の教えに由来する「7つの感情」に基づき、インスピレーションを得たとも語った。このほか、キャストや各セクションに携わるスタッフからの声も、演出の参考にするという。

後半では、これらの演出を劇中に生み出している舞台の裏側について、レポートする。