日本原子力研究開発機構(JAEA)は、那珂核融合研究所にある世界最大級のトカマク型核融合実験装置(臨界プラズマ試験装置)「JT-60」のデータを詳細に解析し、核融合炉の高出力化の鍵となる、「プラズマが到達できる最大の圧力」を決める因子を解明したことを発表した。これにより、ITER(国際熱核融合実験炉)において目標とする出力を得ることがより確実となったという。同成果は、同機構 核融合研究開発部門の浦野創研究副主幹らの研究グループによるもので、国際原子力機関(International Atomic Energy Agency:IAEA)が刊行する制御熱核融合の研究開発全般を網羅する論文誌「Nuclear Fusion」に掲載された研究論文で、その年で引用度が高く、優れた成果に対し送られる2011年のニュークリア・フュージョン賞を受賞した。
高効率の核融合発電の実現には、燃料であるプラズマの圧力を高める必要があるため、境界プラズマに熱の流出を妨げる断熱層を形成して、プラズマ圧力全体を高める運転方式の研究開発が世界各国で進められているが、この断熱層形成の物理を解明し、適切な制御の指針を得ることが重要とされてきた。
これまで、断熱層の幅を決定する因子として、プラズマ内でイオンが磁力線に巻きついて運動する時の回転半径およびプラズマの圧力指数が考えられていたが、同じ燃料核種の場合、これらが一緒に変化するために、それぞれに対する依存性を分離することが困難であり、将来の核融合炉でのプラズマの到達圧力を高い確度で予測することができなかった。
研究グループは、重水素と軽水素の燃料核種の質量比により回転半径が異なることに着目して、JT-60で2種の核種での実験を行った。具体的には、回転半径のみを圧力指数から分離して変化させ、各々の断熱層の幅に対する依存性の解明を行った。
この結果、断熱層の幅の回転半径依存性が比較的弱く、一方で圧力指数の依存性が強いことが示されたという。。この成果は三重水素を使用する装置にも適用可能であり、現在フランスで建設が進められているITERでのプラズマの到達圧力の予測精度の向上に繋がり、目標とする核融合出力を得るために十分な幅の断熱層の形成が可能になるほか、将来の核融合原型炉の設計指針を与えるものになるという。