東北大学は、同大が実施している養成講座「東北大学 科学者の卵」において、仙台第二高等学校(仙台二校) 化学部の研究グループが、硝酸銀の電気分解過程で生じる結晶の解析を行った結果、銀過酸化物Ag2O3の結晶構造からなることを突き止めるとともに、汎用されている酸化銀Ag2Oと比べてより強力な抗菌活性、高い酸化活性、電導性、さらに10倍以上の銀イオンを水に溶出する能力を有したAg2O3クラスレートであることを発見した。同成果は、同校の安東沙綾氏、日置友智氏、山田学倫氏らによるもので、米科学専門誌「Journal of Materials Science」(オンライン版)に掲載された。
銀化合物や銀イオンが細菌やウイルス、真菌などに対する抗菌活性を有することは古くから知られており、第一次大戦以降、スルファジアジン銀(通称 ゲーベンクリーム)が火傷などの薬として重用されてきた。しかしその後、様々な抗生物質の発見により、銀化合物の利用は減少傾向にあったが、近年、抗生物質耐性菌の新たな出現や銀化合物を含む様々な医療器具やナノパーティクル、日常生活用品における除菌・殺菌剤としての利活用など、再び脚光を浴びるようになってきている。
今回の発見は、硝酸銀の電気分解により銀樹(陰極側)を作製する過程で、陽極側に析出する金属光沢のある黒い結晶についての詳細な解析を行い、最終的にはX線回折の結果から導きだされたもの。
Ag2O3化合物は、国内外の試薬メーカーの市販品は無く、その特性についての報告はほとんど皆無であったが、今回の成果により、酸化作用が強く、食紅などの脱色ができることや、酸化物でありながら電気電導性を有すること、そして、粉末固体および水に対する飽和水溶液(上澄み)としてのいずれにおいても、一般的なAg2Oと比較して、より強力な抗菌活性を示すことなどの特長が判明した。
また、Ag2O3は、これまでにNaClO4とAgClO4 を用いた電気精錬法が報告されてきたが、今回用いられた方法はより簡易で低コストなものであるという。
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などが形成するバイオフィルムに対しても有効となる可能性が示唆されており、今後、強力な抗菌作用を有する新たな銀酸化物として、様々な領域での広範囲な利活用が期待されるという。