京都大学は11月25日、謎の宇宙竜巻「トルネード」の正体を、回転するブラックホールが放出した高エネルギー粒子の双極ジェットが生み出した痕跡であることを突き止めたと発表した。研究は同大 鶴剛 理学研究科教授や慶應義塾大学理工学部の岡朋治准教授らの研究グループによるもので、日本のX線天文衛星「すざく」と、野辺山45m電波望遠鏡を用いて確認。成果は、日本天文学会欧文研究報告(PASJ)のすざく特集号(2011年11月25日発行)に掲載された。
トルネードは画像1にあるように、螺旋状の渦巻き電波天体である。このような不思議な構造を持った天体はほかには例を見ず、1960年の発見以来、その正体を巡ってはさまざまな説が挙げられてきた。エキゾティックな超新星爆発の残骸、遠方の巨大ブラックホールが放出する単方向ジェット、回転する中性子星といった説だが、いずれも疑問が残るものであり、また何よりも決め手となる観測情報が欠けていたのである。
研究グループは、その決め手を得るために「すざく」を用いて観測を実施。結果、渦巻きの両端からX線を放射する2つの高温プラズマを発見した(画像2)。これらプラズマの温度、形状、大きさはほとんど同一で、まるで双子のようだという。
プラズマまでの距離は、ちょうど天の川銀河の中心付近に一致。つまり、天の川銀河系の中にある天体だったのである。そこで次に研究グループは野辺山45m電波望遠鏡を使って観測。結果、双子プラズマと同じ位置に分子雲があることが判明した。
これらの結果から、「らせん電波源の中心に回転するブラックホールの存在を確認。このブラックホールに大量のガスが降り注ぎ、その一部が高エネルギー粒子の双極ジェットとして噴出された。回転するホースから吹き出る水のように、このジェットは螺旋状の軌跡を描き、それに沿って螺旋状の電波放射が観測された。さらにジェットの両先端は、分子雲に衝突して双子の高温プラズマを生み出した。そしてそのプラズマがX線を放射している」という結果が導き出された次第である。なお、現在はブラックホールに落ちるガスが少なくなったものと推測されており、ブラックホール本体の検出はできていない。
また、双子のX線プラズマは現在もそれぞれ逆方向に運動しているものと見なされており、2014年に打ち上げ予定の「すざく」の後継機「ASTRO-H」がそれを確認できるものと期待されている。研究グループでは、ASTRO-Hを使って世界初の双方向X線ドップラー(双方向運動)の検出を目指す予定だ。ASTRO-Hには硬X線カメラや、京大が開発している新型CCDカメラが搭載されることになっており、隠れている回転ブラックホールの検出にも挑戦するとしている。