アドビ システムズは、JEITA(電子情報技術産業協会)の主催によって11月16日から18日の期間に幕張メッセで行われた国際放送機器展『Inter BEE 2011』に出展した。また、出展のために来日したアドビ システムズ ダイナミックメディア部門バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのジム ジェラルド氏などが招かれた講演『Content Forum Special Session~拡がる映像制作の可能性、そして未来~』が、16日に幕張メッセ国際会議場で開催された。

『Inter BEE 2011』のアドビブース

ジム ジェラルド氏の他には、映画『モンスターズ 地球外生命体』(2011年)や、2012年公開予定の映画『ゴジラ』の監督ギャレス エドワーズ氏、映画『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』(2010年)等の作品を手掛けたクリエイティブ・プロダクション「ロボット」のプロデューサー村上公一氏、映像制作やWebコンテンツ事業を行っている「フラッグ」代表取締役の久保浩章氏という、映像制作に関わるパネリストが招待され、司会進行役はアドビ システムズでビデオ製品を担当する古田正剛氏が務めた。

映像制作は進化したのか

パネリストに対して最初に出された質問は、「映像制作は進化したのか」というもの。これに対してパネリストは、いずれも「イエス」という答えを返した。ギャレス氏は、特にデジタルテクノロジーの進化について言及し、「デジタルテクノロジーの最大のメリットは、我々が作った映画のように恐竜や怪物を作ることではなく、低予算で映画を作れる事にあります」とコメント。ハリウッドで1,000万ドルをかけて制作された映画は、興行成績でそれだけの額を回収しなければならない。しかし、低予算で制作すればそのリスクを回避できるため、よりスタイリスティックな、より面白いスタイルを打ち出していく事ができるという。

久保氏は、「編集からカンパケまでの作業が社内で完結できるなど、10年前に夢見た事が現実となっている」と、中小プロダクションという立場から映像制作の進化を解説。ジム氏は、「すばらしい才能やクリエイティブなヴィジョン、頭の中のアイデアを美しいストーリーとして描くなど、基礎となる部分は変わっていません」と発言しながら、デジタルテクノロジーによって作業はより速くなり、低予算で複雑な作業が簡単に行えるようになるなど、フィルムメーキングは前進してきたと語っていた。

ギャレス エドワーズ氏

村上公一氏

久保浩章氏

ジム ジェラルド氏

制作時に留意すべき点は

では、進化した現在の映像制作の現場で留意すべき点やはどんな事であるか。まず久保氏が、プロデュースや経営という立場から発言。制作ツールの進化によって、クリエイターが作品のクオリティーを上げていく作業が延々とやれてしまうため、予算や納期を考慮し、どこでそれを止めるのかを注意しているとのこと。

村上氏は、作品に取り組む度に何か新しいテクノロジーを試すようにしているという。例えば過去には、HDカメラで映画を撮影し、フィルムは上映用のプリントまで使わないという方法を取り入れている。ただし、既存の映画業界からの拒否反応が大きかったため、ビデオカメラに慣れているテレビ業界のスタッフで制作を行ったそうだ。日本では映画やテレビ、CMなどの分野別に垣根があったが、テクノロジーの発達によってその垣根がなくなっている気がすると補足し、テレビ業界で働いていたというギャレス氏も、その意見に同調していた。

これから先、2015年の映像制作は?

これまでの進化と現在の状況が語られた後、遠くない未来として4年後の2015年はどのように変化しているのか、という質問が最後に行われた。まず村上氏が、DCP(Digital Cinema Package)上映を行う劇場がこれから増え、映像の作り手ですらフィルムを目にする事がなくなっている気がすると発言。久保氏とギャレス氏は流通形態の進化について、制作者が自ら配信する手段を手に入れる可能性などを語った。そしてシム氏は、IPベースのコンテンツ配信が普及すると、同時にインタラクティビティが実現されるため、物語においても進化が見られると予測している。

アドビ システムズのツールはもちろん、カメラや配信方法に至るまで、目覚ましい進化を遂げている映像制作現場で、プロデューサーやクリエイター達がどんな過去を経験し、どんな未来を想定しているのかを知る事ができた講演となった。