ロームと大阪大学(阪大)の研究グループは、共鳴トンネルダイオードによる発振素子と、検出素子を用いることで、小型デバイスでの300GHz高速無線通信(1.5Gbps)に成功したことを発表した。同成果は、2011年11月24日から開催される「第1回 テラヘルツナノ科学国際シンポジウム(TeraNano 2011)」並びに12月5日から開催される「The Asia-Pacific Microwave Conference(APMC2011)」にて発表される予定。
光と電波の中間領域にあたるテラヘルツ波(周波数100GHz~10THz)は、それを発生させる技術や検出する技術が難しく、これまで未開拓電磁波領域と呼ばれてきたが、近年、開発が進んでおり、高速無線通信やセキュリティ用途など、さまざまな分野への応用が期待されている。
現在、周波数275GHzまでの帯域は電波として割り当てが決められており、ミリ波を使用した無線通信の帯域幅は7GHzと狭く、単純な変調では数Gbps 程度の伝送速度が限界であり、限られた帯域の中でデータ伝送速度を高めようとすると、より複雑な変調方式を使う必要があり、消費電力の増加にもつながっていた。
一方、テラヘルツ波を含む275GHz以上の領域では周波数割り当てが決められていないため、より広い帯域を確保することが可能で、消費電力を増やすことなく、単純な変調方式でデータ伝送を高速化することができる。しかし、現在テラヘルツ帯で使える発生装置や検出装置(例えば分光・分析装置で利用されている)は大型かつ高価であり、民生分野での実用化に向けては、小型かつ簡便なテラヘルツ帯デバイスが求められていた。
研究グループは今回、半導体基板上に放射効率、指向性を改善したアンテナ構造を集積化することで、素子を1.5mm×3.0mmに小型化した。同素子は、電圧によって発振素子(周波数300GHz)として動作する領域と、検出素子として動作する領域があり、発振素子としては電圧をかけるだけで発振が得られ、検出素子としては従来のテラヘルツ帯検出器に比べて4倍の高い感度を実現したという。また、共鳴トンネルダイオードに最適な変調・復調システムを独自に構築することにより、データ伝送の高速化(1.5Gbps)を実現し、非圧縮でのハイビジョン映像の無線伝送にも成功しており、これにより例えば100Mbpsのイーサネットで10分かかっていたデータでも約40秒で伝送することが可能になるという。
将来的には30Gbps程度の高速伝送も可能なほか、1チップで発振素子と検出素子の両方の役割が可能なため、素子間での双方向通信も可能だという。
なお、テラヘルツ波は紙や衣服を透過し、金属のみを反射するという特性を持っているため、郵便物の危険物検査や空港のセキュリティチェック、医薬品の品質検査など、幅広い分野への応用も期待されている。