北海道大学(北大)と島津製作所は、「次世代高精度放射線治療のための新動体追跡技術」の商品化に向けた共同開発を行い、試作機が完成したことを発表した。同技術は、北大の白土博樹教授と石川正純教授らが研究を進めてきたもので、がんの放射線治療で使用するX線治療装置と組み合わせるシステムだ。1999年に白土教授が開発した動体追跡技術と、それをさらに機能的に充実させる研究を2006年から行ってきた石川教授の2人による成果が結実した形である。

外科手術、抗がん剤と並ぶ3本柱といわれるのが、放射線を用いたがん治療だ。放射線治療は治療に伴う痛みがほとんどなく、身体の機能と形態を損なわないため、治療と社会生活の両立が可能であり、生活の質(QOL)を維持しつつ、がんを治療できる手法として注目を集めている。

放射線治療には、X線治療と粒子線治療の2種類があるが、国内では現在はX線治療が90%を占め、年間24万人が治療を受けている状況だ。同様に、海外でもX線治療は盛んに行われている。

一方で、脳の腫瘍のように動かない部位では腫瘍へのピンポイント治療が可能だが、肺や肝臓のような体幹部の腫瘍は、呼吸の周期に合わせて胸部や腹部が大きく上下して一定の位置に保たれないため(呼吸性の移動)、腫瘍の位置をリアルタイムでとらえて、正確に放射線を照射する技術が切望されているのが現状だ。

こうした課題を解決できる新動体追跡技術は、腫瘍近傍に2mmの金マーカーを刺入し、CT装置であらかじめ腫瘍中心との関係を把握しておき、2方向からのX線透視装置を利用して、透視画像上の金マーカーをパターン認識技術で自動抽出し、空間上の位置を周期的に繰り返して計算を行う。そして金マーカーが計画位置から数mmの範囲にある場合だけ同期照射をするという仕組みだ。これを高速で行うことで、体内で位置を変えるがんでも、構成での照射を行えるというわけである。なお、この技術は世界で初めて実現したものだ。

この新しい技術による照射での照射体積は、従来の呼吸性の移動によるがんの移動範囲を全て照射する方法と比較して1/2から1/4に減らせるので、正常部位への照射を大幅に減らすことが可能となっている。

またシステムの構成は、X線管、X線検出器、X線高電圧装置、同期制御装置、動体追跡処理装置からなる。商品化に伴い、複数マーカーへの対応を可能とし、より詳細な主要位置の情報を得ることで、ピンポイント照射の精度向上を図る予定だ。また、X線管とX線検出器の保持器に改良を加え、移動する主要位置の追跡をよりスムーズに行えるようにもする。さらに、X線検出器部分は、I.I.(イメージインテンシファイア)のほかに、フラットパネル検出器を用いるタイプもラインナップできるように進めているとした。

今後は、前述した改良を含めた試作機によるさまざまな試験を行ってシステムの完成度を高め、白土教授が関わるスーパー特区(ミニマムリスク型放射線治療機器開発)などを通じ、橋渡し研究支援機関である北海道臨床開発機構の支援のもと、2012年度の賞品かを目指していく。国内市場に投入した後は、海外市場も目指すとした。