東京大学(東大)と東北大学(東北大)らによる研究グループは、「超高分解能走査透過電子顕微鏡とスーパーコンピューター計算を駆使して、セラミックス(酸化マグネシウム)の結晶界面において、ごく微量の不純物が集まって原子レベルでまったく新しい超構造を形成すること、すなわち、結晶内の不純物が結晶界面に集積して規則配列した3次元構造(超構造)を形成することを発見した。同成果は東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構の幾原雄一 教授(東北大学原子分子材料科学高等研究機構教授、ファインセラミックスセンターナノ構造研究所主管研究員 兼任)と東北大学原子分子材料科学高等研究機構の王中長 助教らによるもので、英国科学誌「Nature」オンライン版で公開された。

セラミックスは土器や陶器としての活用から現在では耐熱構造材料、電子部品などの用途にも利用される、身の回りにありふれた材料だ。セラミックスの大半は粉体を高温で焼き固めた焼結体を成形して利用しているが、脆いという特性がある上に、その強度のバラつきが大きく、これが用途拡大のための問題点になっていた。

その元凶は、原料中に混在している微量な不純物の存在にあると考えられてきたが、その詳細は不明であったが、この問題を解決するためには、粉体中のごく微量の残留不純物(濃度レベル:ppm)が高温焼結後に「どの場所に安定的にとどまり」、「どのように特性に影響を及ぼすか」など原子レベルでの理解とそれに基づいた不純物制御が必要となっていた。

今回の研究では、元素識別可能な分析装置(電子エネルギー損失分光器)を搭載した超高分解能走査透過電子顕微鏡を用いて、高温焼結した高純度酸化マグネシウム(純度99.9%)の結晶粒界においてごく微量の不純物であるカルシウム原子とチタン原子が同時に偏析し、さらにそれらが複数の欠陥と強く結びついて形作られた「原子スケールで規則配列した3次元構造(超構造)」を発見した。

粒界における不純物の超構造形成メカニズム:(a)焼結前、(b)焼結後

セラミックスは小さな結晶粒子が集まった多結晶体で形成されているが、焼結前は不純物が粒子内に点在しているが、焼結後は粒子と粒子の間(粒界)に集まってくる。この現象は「偏析」と呼ばれるが、従来の方法ではその原子の位置が同定できなかった。また、粒界部を拡大したモデルを見ると、焼結前は偏析していなかった不純物が、焼結後は粒界部に集まっている様子が分かるが、これまで、この不純物の集まり方(原子位置など)が不明であり、今回、走査透過電子顕微鏡法で観察を行った。

粒界に不純物原子が規則配列した「超構造」を捉えた写真(a)とその模式図(b)

また、得られた実験像と理論計算構造を比較しながら決定した原子構造を比べることで、結晶粒界部ではカルシウムとチタンが幾何学的に並んだ「超構造」が形成されていることが分かった。これは結晶内部にごく微量残留していた不純物のカルシウム(数100ppm)とチタン(数10ppm)が高温で焼結した際に結晶粒界に同時に移動して、特殊な超構造を形成したことを示したものであるという。

この超構造は、エネルギー的にも非常に低く、安定構造であることも判明しており、これは、このような構造が形成される粒界は強固に結合しており、バルク焼結体の強度も大きいことと符合することから、今回の発見は「原子自ら意志をもっているかのように移動して幾何学的で規則的な超構造を自己組織化する現象」であると研究グループでは指摘している。

なお、研究グループでは今後、この成果が不純物制御によるセラミックス材料の高性能化に関する研究のブレークスルーになることが期待されるほか、原子レベルでの超構造を自在にコントロールできれば、特異な電気・磁気特性などのまったく新しい機能特性の発現も期待できるため、これまで専ら経験的手法で製造されたエンジニアリング色が濃いセラミックスにおいて、サイエンスの知見を活かした技術革新の展開にも期待できるとしている。