海洋研究開発機構(JAMSTEC)などの研究グループは、高圧相転移実験を行い、地球外核(液体)の重要な成分である酸化第一鉄(FeO)が地球外核での一定以上の温度・圧力条件下(240万気圧、4000K)で、従来知られていなかった結晶構造で安定すること(相転移)を発見した。同成果は、JAMSTEC地球内部ダイナミクス領域の廣瀬敬上席研究員(兼 東京工業大学教授)、同 小澤春香技術研究副主任、東京工業大学 大学院理工学研究科の高橋太助教らと、高輝度光科学研究センター(JASRI)によるもので、米科学誌「Science」に掲載された。

地球の中心には半径3500kmの金属鉄を主成分とする核があり、金属核は深さ5150kmを境に液体核(外核)と固体核(内核)に分かれており、外核の液体金属が対流することで、地球磁場が発生している。外核の成分は溶融した状態の鉄で、30%程度の酸化第一鉄(FeO)が含まれており、地震波観測に基づいて外核の対流は一層だと従来考えられてきたが、温度圧力条件の変化に伴う成分の結晶構造の変化の影響など考慮されておらず、正確には分かっていなかった。今回の研究では、FeOの外核中での結晶構造の変化を調べ、その変化により外核がどのように対流しているのかを調べた。

地球の断面図

具体的には大型放射光施設SPring-8の高圧構造物性ビームライン(BL10XU)において、地球外核の物理条件の範囲(227万気圧、3770K~324万気圧、4180K)で、地球外核の成分であるFeOの結晶構造がどのように変化するのかをレーザー加熱ダイヤモンドアンビル装置を用いて調べた。この結果、外核中部に相当する温度圧力条件下(240万気圧、4000K)で塩化ナトリウム型構造から塩化セシウム型構造へと結晶構造が変化することが確認された。

AとBがレーザー加熱ダイヤモンドアンビル装置。対向する一組のダイヤ(C)の間に試料をはさみ、超高圧下でレーザーを照射することで、実験室内で地球内部の温度圧力を発生させる

FeOが塩化セシウム型構造をとることは従来知られておらず、今回初めて発見されたものとなる。この結晶構造の変化は対流の障害になり、外核の対流を変える可能性があるため、今回の結果を数値シミュレーションに取り入れ、外核の対流状況を調べた結果、外核の対流は、FeOが塩化セシウム型構造に変化する深度で遮断され、従来考えられていたような一層ではなく、二層対流となることが明らかとなった。

高圧高温下におけるFeOの結晶構造変化(状態図)。 赤い領域が実験圧力温度領域。B1:塩化ナトリウム型構造、B2:塩化セシウム型構造、B8:ヒ化ニッケル型構造、rB1:歪んだ塩化ナトリウム型構造(点線はFei & Mao (1994)、融解曲線はFischer & Campbell (2010))

外核の対流運動により地球磁場は生成されており、地球の歴史を通して、地磁気の南北は平均して70万年に1度入れ替わって来たが、研究グループでは、今回の成果をもとに、二層対流が不安定になることで、地磁気の逆転を引き起こしている可能性があるとしている。

外核の対流様式の子午面断面図(矢印は流れを示す)。左図は外核内に相転移がない場合。外核液体中の相転移が二層対流を引き起こしている(右図)