ARMは11月11日、都内で同社およびパートナー企業の最新技術などを紹介するイベント「ARM Technocal Symposia 2011」を開催した。基調講演には同社PresidentのTudor Brown氏が登壇し、「成功をもたらすパートナーシップ」と題し、ARMの現状と目指す未来を語った。
ARM PresidentのTudor Brown氏 |
ARMプロセッサの開発の歴史は1985年のARM1にまで遡る。この当時、プロセスは3μmで、6000ゲートであったが、2011年時点で数多く製造されるようになったCortex-A9は40nmプロセスを採用し、100Mゲートを達成している。また、ネットワーク技術の進展に伴い、ARMコアを搭載したデバイスの出荷数も年々増加。2010年に出荷されたSoCは220億個。その内28%がARMコアを搭載していた(細かいアプリケーション別で見た場合は携帯電話が37億個で内90%がARMコア、組込関連が153億個で内33%がARMコア、エンタープライズ向けが15億個で内ARMコアは50%(HDD用途))だが、これが2015年にはSoCの年間出荷個数は340億個へと拡大し、多くのアプリケーションが2倍程度か、それ以上の伸びを見せることが期待されることとなり、「ARMコアをあらゆる分野で使ってもらいたい」とし、ARMアーキテクチャによるスケーラビリティを活用することで、それぞれの分野に見合った性能と電力を実現することが簡単にできることを強調する。
「我々のビジネスの中心はモバイル機器。その市場は、電力、サイズ、熱、そしてコストなどの多くの制約があるが、その中で性能の向上も果たさなければならない。そうしたニーズに対応できるような研究開発を進めてきており、2010年は1億5000万ドルを投じて次世代コアの開発を進めており、今後も研究開発を重視していく」と、今後もモバイルを中心にしつつ、あらゆるシーンで活用できるプロセッサコアなどの実現を目指すとしており、「ヘテロジニアスなシステムが重要になってくると思っており、ARMの提供するCPUコアとGPUコアを活用すれば、コア数に応じて性能を決められるのでスケーラブルにそうした要求に対応することができる」とした。
性能の面で同社は2010年にハイエンドCPUコア「Cortex-A15」を発表しており、すでにTSMCとCadence Design Systemsと協力して20nmプロセスを用いたテストチップを製造しており、同コア搭載SoCを組み込んだ最終製品は2012年末ころの登場予定としている。
一方、電力効率の向上という面では、「Cortex-A7」を発表している。Cortex-A7はCortex-A5をベースにCortex-A15とアーキテクチャを同一にして、L2キャッシュの統合や物理空間アドレスの40ビット拡張、完全仮想化、L1メモリシステムの電力効率最適化などの改良が施されており、1GHz駆動(28nmプロセス)の場合、Cortex-A8(45nmプロセス)比でWebブラウジングを行った場合、6倍近い効率の向上が可能になるという。
ハイパフォーマンスと電力効率、それぞれを重視した2種類のアーキテクチャは同じCPUコアをコヒーレントに統合しようという考えが「Big.LITTLEプロセッシング」だ。例えば通話やSMSにはパフォーマンスは必要ない。しかしWebブラウジングは、初めにWebページを開く際には高い描画能力がないと重いが、一度描画してしまえばスクロール程度しか行わないのでパフォーマンスはいらない。また、ゲームや動画再生などは相当なパフォーマンスが必要となるということで、それらに適したパフォーマンスを見て、Cortex-A7もしくはCortex-A15のどちらかのコアを使うかを判断することで、パフォーマンスと電力効率の両立を図ろうという試みである。
キャッシュも2プロセッサで共有し、ソフトウェア側から見ると完全に同一なプロセッサとして見ることができ、振り分けタスク管理はOS側で行うという。
また、GPUもMaliシリーズの拡張を進めており、11月10日には最大8コアまで対応可能な「Mali-T658」も発表しており、GPUコンピューティングなどにも対応可能となってきており、「サーバ分野でもARMのテクノロジーが使われるようになってくる。トラフィックの増大に合わせてサーバの台数も世界的に増加しているが、そうした対応は効率が悪いと言わざるを得ない。サーバが増えることでCO2の排出量も増加してきている。データセンターの性能はサーバをどれだけ入れられるのかではなく、建屋全体の電力供給量や熱解放量などが制約になりつつある。電力効率を意識したサーバという考え方が、サーバ市場のすべての分野とは言わないが、かなりの部分をサポートできると思っている」と、x86アーキテクチャが大半を占めるサーバ分野への参入へも意欲を見せる。
こうしたさまざまな市場に向けた取り組みも、IPコアベンダである同社だけでは不可能であり、「ARMパートナーシップはARMの成長基盤」と同氏も表現するとおり、同社のIPコアを採用したSoCを製造する半導体ベンダ、そしてそれを搭載した機器を製造する機器ベンダがいなければ成り立たない。また、各種の開発ツールやソフトウェアなどを提供するソフトウェアベンダも同様であり、「すでにARMコネクテッドコミュニティは900社以上のメンバーに参加してもらっており、それがARMを生かしている。その多くがソフトウェアパートナーシップであり、多くのアプリケーションがARMプロセッサで動作するようにしてくれており、2010年にはLinux開発コミュニティであるLinaroも立ち上げた」とLinux向けの開発速度が加速していることをアピールしたほか、Windows 8によるARMサポートにも触れ、「すでにWindows on ARMはデモなども公開されており、近いうちに登場するものと思っている」とした。
なお、同氏は現在の世界市場について、「コネクテッドデバイスの波が世界で見られており、そうした根底にはモバイルデバイスの伸長がある。現在、1日に50-60万台ほどのAndroid搭載スマートフォンが出荷されているといわれている。ARMコアがこの成長を支えていると思っている」とARMコアがモバイル機器の市場の伸長を支えているとしたが、「エンドユーザーはさらなる電力効率と性能の向上をモバイル機器に求めている。我々はそうした効率の改善をさらに進める取り組みを行っており、今後もカスタマがより強力な製品をエンドユーザーに提供していけるようにしていく」とし、パートナーシップを重視し、性能と電力効率の向上を軸にさまざまな市場のニーズに対応できるIPコアの提供を進めていくとした。