2011年6月のTop500で1位を獲得した「京」スーパーコンピュータ(スパコン)が富士通製であることは良く知られているが、神戸のポートアイランドにある京スパコンを入れる計算科学研究機構の建物(以下、京センター)を誰がどのように設計したかは、殆ど知られていない。

この神戸のスパコンセンターの設計を担当したのは日建設計という会社で、この建物の設計を担当した設計部門副代表の五十君興氏と構造設計を担当した朝川剛氏が、10月21日のサイエンティフィック・システム研究会(SS研)で講演を行ったので、その様子をレポートする。なお、同研究会は会員限定の催しであるが、会員以外でも、発表資料はSS研のWebサイトからダウンロードすることができる。

京センターの設計について講演する五十君興氏(左)と朝川剛氏(右)

日建設計は、一般にはなじみの薄い会社であるが、SPring-8の隣に作られたX線自由電子レーザSACLAの実験研究棟やスパコン関係では地球シミュレータセンターの設計を行った会社である。そして、東京ドームや埼玉スーパーアリーナ、東京タワーや東京スカイツリーの設計も日建設計というように、日本を代表する建築土木設計会社の1社である。

スパコンセンターは、当然、スパコンが主役であるが、京センターには世界中から研究者や見学者が訪れることになるので、単なる機能重視の建物ではなく、メッセージ性のある建築、環境に調和した建築にしたかったという。そして、スパコンを守るという建築本来の役目もしっかり果たす建物であることは当然の要件である。

スパコンを見せる・魅せる建築として、研究棟は2重外壁で外側の壁をガラスとする建築を考案した。この2重の壁は単なる装飾ではなく、2枚の壁の間が煙突のようになって空気が通り、外気による冷却効率を高めているという。

京センターの西側の研究棟のガラス壁面(以下、右上にサイエンティフィック・システム研究会と書いてある図は全て、五十君氏および朝川氏のSS研での発表資料から転載)

また、計算機棟の窓はゲノムなどの塩基配列をイメージした縦長の細い窓を不規則に配置している。

塩基配列をイメージした計算機棟の縦長の窓

そして、建物は道路と平行に建てられるのが一般的であるが、次の図のように、17度右に振った配置にして、麻耶山を正面に望むようになっている。

建物は道路とは17度向きをずらした配置

なお、この地図ではポートライナーの駅名はポートアイランド南駅となっているが、2011年7月1日に京コンピュータ前駅に変更されている。

京コンピュータ前と駅名が変更された

しかし、研究会の出席者からは、年数が経って京コンピュータがTop500の20位、30位になっても、この駅名は残るのかという懸念の声も上がっていた。

京センターの東西の断面は次の図のようになっており、西側に事務室や研究室が配置され、東側に計算機室と空調機械室が配置されている。

京センターの東西断面図

この図に見られるように、計算機室と空調機械室は事務室などの2階分の高さがあり、京コンピュータの計算ノードが設置されている計算機室2は、普通の建物でいうと5階にあることになり、見学ホールは6階に設けられている。

なお、当初の計画では事務研究棟と計算機棟は別の建物となっていたが、最上階まで吹き抜けのアトリウムを挟んで計算機室と研究室を隣接させ、研究者同士がアトリウムのくつろいだ環境でコミュニケーションができるという構造を提案し、現在の形に落ち着いたという。

最上階まで吹き抜けのアトリウム。左が計算機室で右が事務室と研究室